栃木県のとある古書店で一冊の本をやっと見つけた。僕が産まれた年に刊行された「生化学の諸切片」という教科書である*。実はこの副題に僕は心がひかれた。副題は 「硫酸、硝酸、核酸」である。 私は学生のころから今に至るまで硫酸、特に糖鎖の硫酸基修飾を対象に研究を行っている。硫酸が核酸より順位が上ということは当時硫酸が核酸よりも重要だと認識されていたのではないかと勝手に思い込んでしまった。今でも硫酸の潜在機能に心を躍らせ研究を進めている。 糖鎖の構造は何万通りにもなり非常に複雑なのかもしれないが難解なものほどヒトをよく引きつける。シンプルな実験系とごくわずかな図で硫酸化糖鎖の生物機能の説明ができるようになりたい。上記教科書の刊行から40年たった今どんな教科書が書けるか楽しみである。 私は大学院生時代に新規な糖鎖硫酸転移酵素遺伝子の発見とクローニングおよび命名に携わることができた。その後当該遺伝子ノックアウトマウスの作製および解析に従事し、多くの糖鎖硫酸化の生物機能を明らかにすることができた。中でも、 細胞表面セレクチンリガンド糖鎖の合成におけるGlcNAc6位硫酸化反応の重要性およびそのリンパ球の血管内皮細胞上におけるローリング速度の規定をあきらかにできたことは非常にうれしかった。切磋琢磨している同分野の研究者の方々に自分が受入れられた気がして至上の喜びであった。私は幸運に恵まれている。恩師、また多くの同僚に支