若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

「有髄神経をつくる」という研究に携わって国立成育医療センター研究所 薬剤治療研究部
東京工業大学大学院 生命理工学研究科
山内 淳司

h21_4タイトルを読むとなんだか難しい研究のように思われます。私もちょうど5年前までそう感じていました。私は、大学院では生化学・分子生物学を専攻し、それをベースにして博士研究員のときに分子薬理学的な研究をしてきました。したがって、具体性がない表現ですが、神経の研究をしたいと思ってもなかなかその分野に入るきっかけがつかめなかったことを覚えています。つまり、私は決して若くない年齢で神経を対象とした生化学研究に転身しました。そのため、日々出版され、ウェブサイトに載るような内容の研究は、自分には遠い存在であると思い、私でも研究できる比較的競争がない研究領域を探しました。しかし、時流に流されやすい私は、当時、現実味を帯びてきたさまざまな「組織の再生」に関する研究に興味を抱き、その方向で何かできることはないかと考え始め、思い切って、神経‘系’をin vitroで再構成してみようと思いました。周知のように、神経組織は、神経細胞だけではできていません。神経細胞よりも大量に存在するグリア細胞の存在なしでは、おそらくその機能を充分に発揮できないはずです。特に、有髄(グリア細胞由来のミエリンを有する)神経ではグリア細胞の役割が顕著で、無髄神経と比べて神経信号の伝達速度に大きな違いがあります。しかし、この有髄神経ができる分子メカニズムに関して、今でもほとんど明らかになっていないのが現状です。それは、この分野の研究が現在でも遺伝子改変動物の作出とその性状解析に比重をおき過ぎる傾向にあることが挙げられるからだと思います。しかし、ここ数年間の飛躍的な研究情報の蓄積と技術革新を背景に、多くの種類のグリア細胞と神経細胞を各々高純度に精製し、その後in vitroで共培養し再構成してから有髄神経をつくることが可能になってきました。そして、共培養下でもぞれぞれの細胞に特異的に遺伝子を導入することができるようになりました。その結果、有髄神経の形成を制御する、いくつかの新しい分子を、生化学的に同定することができました。また、これらは、同じ研究室の共同実験者や他の研究機関の同世代の共同研究者と共に勉強しながら、最新の情報を交換できる機会に恵まれたからだと思っています。しかし、未だに真の意味での有髄神経を再構成するということや、長期間に渡る神経発生の時間空間的な分子メカニズムを明らかにするということにはほど遠く、今後、この現象に関与するシグナル伝達因子をひとつひとつ明らかにし、その全容解明に向けて日々研究を継続していこうと思っております。以上、思いつきで始めた研究とその経緯に関して述べたものですが、この文章がすこしでも今後の研究の方向性を選択する際にお役に立てれば幸いです。ありがとうございました。

 

 

「国立成育医療センター」HP:
http://www.nch.go.jp/pharmac/index.html
「東工大生命」HP:
http://www.bio.titech.ac.jp/bs_j/seitaisystem_009.html