若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

四十にして惑わず奈良先端科学技術大学院大学
末次 志郎

奨励賞2013-2この度は、名誉ある日本生化学会奨励賞を頂き身に余る光栄でうれしさをかみしめています。
大学入学当時、何となく研究者、あるいは、学問を志していた私は、細胞の形態形成を学ぼうと、当時東大医科研にあった竹縄忠臣研究室の門をたたきました。そこでは、現大阪大学の三木裕明先生らにより、シグナル伝達が細胞のアクチンをどうやって動かす仕組みがつまびらかにされるところでした。次いで、アクチンの制御タンパク質の研究から、脂質膜の形状をつかさどる「鋳型」となると考えられるBARドメインを持つタンパク質群の同定に至りました。考えてみれば、細胞の形状というのは、アクチンなどのタンパク質が重要な役割を果たすことは明らかなのですが、その本質は、脂質膜の形状です。しかし、タンパク質や遺伝子ばかりに目が向き、脂質膜の重要性は、なかなかすぐに頭に思い浮かぶ物ではありませんでした。幸いなことに、理化学研究所の嶋田睦先生、村山和隆先生、横山茂之先生らの協力で、BAR ドメインタンパク質の立体構造の解明に成功し、その結果、タンパク質の立体構造を脂質膜の「鋳型」として用いることで、細胞の形態形成が行われることを示すことができました。このタンパク質の立体構造による形態形成というあたらしい概念は、様々な分野を統合して初めて可能で有り、とても私一人の力ではできない研究でした。このような経験から、現在もなるべく新しい技術を取り入れ、分野横断的な研究をできるように心がけていますが、反面、いろいろな分野を包括した研究は難しく、ともすれば散漫になりがちです。論語には「三十にして立つ。四十にして惑わず。」とありますが、私も2014年には40才になります。惑わずに、明確な見通しと方法論を持って自分の研究を切り拓いていきたいと考えています。細胞の分化と形態変化は密接な関係にありますが、それはやはり原因ではなく結果なのでしょうか?細胞の形態形成は本当に細胞の分化や脱分化にとって必要不可欠な意味があるのでしょうか?あるいは、がん化において、細胞は必ず形態変化を伴う必要はあるのでしょうか?これをうまく解決可能な問題に、願わくば、BARドメインを持つタンパク質の制御、アクチン細胞骨格の制御系、あるいは、BARドメインタンパク質の分子集合などの問題に落とし込み、解明していきたいと考えています。これからも皆様のお力添えをどうぞよろしくお願い致します。

末次 志郎 氏 略歴
1999年4月~2002年3月  日本学術振興会特別研究員(DC1) (竹縄忠臣 教授)
2002年4月~2006年12月 東京大学医科学研究所 腫瘍分子医学分野 助手(竹縄忠臣 教授)
2006年10月~2010年3月 科学技術振興機構さきがけ研究者
                                         (生命システムの動作原理と基盤技術、中西重忠研究総括)(兼任)
2007年1月~2009年6月  東京大学分子細胞生物学研究所 若手フロンティア研究プログラム 講師 
2009年7月~2014年1月  東京大学分子細胞生物学研究所 細胞形態研究分野  准教授
2014年2月〜         奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 分子医学細胞生物学 教授