日本生化学会会員のみなさん、

 

前号(Dec 2013)で紹介したように、DORAの宣言は“Journal Impact Factor(IF)値を使って個々の論文を評価することをやめよう”というものです。論文の優劣は内容の評価に基づいて判定されるべきですが、内容の理解が難しい場合や数値化判定が必要な時があります。そのような場面ではIF値を使わずにどうやって論文を評価したらよいでしょうか。DORAを支持する人たちもその方法を模索中のようです(EMBO Rep. 14:947)。

 

論文の評価をそれが掲載された学術雑誌(ジャーナル)のIF値に基づいて行うことが適切でないとする意見の根拠は、“高いIF値を持つジャーナルにも被引用頻度の低い論文が多く含まれる”ことです。何度も引用されることが優れた論文の証しだとすると、被引用回数を論文ごとに比べれば優劣が判明することになり、その数値はThomson Reuters社のWeb of Scienceを利用すると得られます。

 

その考えに基づくと、個々の研究者の論文業績は全発表論文の被引用回数の総和で評価できることになります。しかし、“ほとんどの論文は引用されていないが極端に被引用回数の多い論文が少しだけある”時に、その業績をどう評価できるでしょうか。例を挙げて考えてみましょう。ともに5編の論文を持つA氏とB氏を比較するとします。A氏の論文の被引用回数は115、2、1、1、1、一方のB氏では15、15、10、10、10です。被引用回数の総和はそれぞれ120と60であり、A氏がはるかに優勢です。しかし、A氏では1つの論文がたくさん引用されているために総数が大きいのに対し、B氏は総数ではA氏に劣るもののどの論文も10回以上引用されて一定の評価を受けているといえます。どちらの業績が優れているとみるかは意見の分かれるところでしょう。これを解決する手法が、米国のJ. E. Hirsch氏によって2005年に考案されています(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102:16569)。Hirsch氏が提案する「h index(エイチインデックス)」とは、“N回以上引用された論文をN編以上持つ時に、その研究者のh indexをNとする”というものです。前出のA氏とB氏のh indexはそれぞれ1と5に算定され、h indexに基づく評価ではB氏の業績の方が優れていることになります。ノーベル物理学賞の受賞者(2005年までの20年間)のh indexの平均値は40ほどだそうで、生化学などの生命科学分野ではh index値25~30が“優れた”論文業績の目安とされることがあります。近年ではh indexが使われる場面が増えており、これを教員の研究能力判定の指標のひとつにする大学もあるようです。

 

しかし、h indexによる論文業績の評価法も万全ではありません。まず、被引用回数は積算値なので公開後の期間の長い論文の方が有利です。また、総説や実験手法を記述する原著論文の被引用頻度は一般にこれら以外の論文よりも高い傾向にあります。さらに、内容が同レベルであっても専門領域が違えば論文の被引用頻度に差が生じるようです。こうなると、さまざまな補正をしなければ適切な数値は求まらないことになり、もはやHirsch氏オリジナルのh indexではなくなってしまいそうです。私は、被引用などの数値ではなく内容を見てくれ、と言い続けようと思います。

 

次号では、多様化が進むジャーナルの形態を考えます。

2014年1月
中西義信