日本生化学会会員のみなさん、

 

 今号と次号とで、ジャーナルに投稿された論文原稿の審査にまつわる課題について考えます。今号では、その前提である論文審査過程の基本的な流れを確認します。

 

 論文原稿がジャーナルの編集部(editorial office)に届くと、編集委員長(editor-in-chief)が審査統括にあたる編集委員(editor)を研究の専門領域などに基づいて割り振ります。多くのジャーナルでは、まず編集委員長と編集委員とで原稿を詳細な審査(in-depth review)に供するかどうかを判定します。それに値しないとされれば、この時点で掲載が拒否されます。詳細な審査に移行する時には、ジャーナルの常任審査員会(editorial board)のメンバーやそれ以外の研究者から編集委員が2~3名の審査員(reviewer)を選びます。審査員は当該論文の内容に通じた研究者である場合が多いことから、この審査形態はピアレビュー(peer review、専門家仲間による審査)とよばれます。

 

 論文審査の依頼は、担当の編集委員から電子メールなどで届けられます。依頼文には論文原稿の要約部分が添えられています。依頼を断る時には、その理由を示し(研究領域が異なり適切な審査ができない、著者は共同研究者であり公平性が保たれない、など)、多くの場合、代わりの審査員候補を推薦します。審査員を引き受けると、審査用のウェブサイトから原稿全体をダウンロードできるようになり、それを受け取って査読を行います。審査期間は2週間ほどに設定されているジャーナルが多いですが、より短く10日以内としているものもあります。ウェブサイト上で行う審査結果の報告では、著者に通知される論文内容の評価に加えて、採択の可否や論文体裁の適切さについての意見が求められる場合が多く、編集委員への伝言もできます。「論文内容の評価」(reviewer’s comments to authors)では実験結果の不足や解釈の誤りなどを伝えます。「採択の可否」の判定には採択(accept)・改訂(revision)・却下(reject)のいずれかを提示し、さらに改訂が軽微(minor)と大幅(major)に分けられているジャーナルもあります。審査の最終判定は編集委員に委ねられますが、実際には“参考意見”を求められる場合が多いです。「編集委員への伝言」(confidential comments to editor)には、“すぐれた研究成果なのですぐに採択すべき”や“研究課題が当該ジャーナルにそぐわない”などの意見を書きます。これらに加えて、原稿の長さ、文章のわかりやすさ、統計処理の適切さ、採択された場合に宣伝に値するか、などへの意見を述べます。審査員は匿名が原則ですが、著者に氏名を伝えるかどうかを選べるジャーナルもあります。

 

編集委員は審査員の意見に基づいて最終判定を下し、各審査員による「論文内容の評価」とともに責任著者(corresponding author)に通知します。責任著者はほかの著者に結果を知らせ、採択判定以外の時には対応を考えます。初回の審査では、“追加実験の結果を盛り込んで原稿を改訂すればもう一度審査する”という判定が多く見られます。そして、これに沿って書き直された“改訂稿”(revised manuscript)が、審査員意見への著者の返答(authors’ response to reviewers’ comments)とともに再投稿されます。著者はこの時に、審査員評価への反論(rebuttal)を編集委員に伝えることもできます。原稿修正の期間はジャーナルごとに定められていますが(多くは3ヶ月ほど)、適切な理由があると認められればそれを越えることが許されます。改訂稿は、原則として同じ審査員により二度目の査読を受けます。この作業を繰返して(改訂回数が定められているジャーナルもあります)、論文がジャーナルに掲載されるかどうかが決まります。

 

次号ではピアレビューにおける問題点について考えます。

 

2014年6月

中西義信