会長だより

会長だより 第2号:~大会のWeb開催への挑戦~

2020.5.7

5 月 1 日付で第 93 回生化学会大会・会頭の深見先生との連名で、会員の皆様方に第 93 回大会は Web 開催とさせていただく旨の連絡を差し上げました。本件につきまして、補足説明をさせていただきます。


前回の会長だよりを配信した3月30日以降COVID-19に関する国内外の状況は悪化し、我が国でも4月7日に緊急事態宣言が発令され、大学でも教育活動に加えて、研究活動も自粛されるようになりました。学部学生は登校禁止状態を継続して、修士、博士課程学生、技術職員、研究者、教員も不要不急の研究以外は原則行わないという体制になっているかと思います。このような状況下、大会組織委員会と理事会は、9月開催予定の大会のあり方につきまして、複数回にわたりWeb会議とメール会議で議論を行いました。日本生化学会は1925年を第1回として、1944年の流会(第2次世界大戦の影響)ならびに1945年~1947年の不開催を除けば、90年以上にわたり毎年1回の大会を開催してきました。その意義は、①自身の研究成果を発表し、関連領域の研究者からの意見をうかがう、②自身の専門外の領域の発表を聴講し、新たな知識を獲得する、③旧交を温め、人的交流を行う等が挙げられるかと思います。国内外で催される種々の学術集会の意義も概ね同様と理解しています。しかし、これらの活動は、まさに3つの〝密″が重なる場を提供することにもなります。最近は全国の新規感染者数は減少傾向にあり、夏を挟んだ9月下旬には新規感染者数は相当数少なくなることも予想されます。しかし、その時点において生化学会大会のような3000人規模の集会を開催することが社会的に許容されるかは不透明ですし、会員の皆様も横浜の会議場に足を運ぶことについて不安を持たれるかもしれません。また、生化学会大会の開催が新たな感染拡大の引き金になるリスクも配慮しなければなりません。一方で、4月末までに一般演題応募数は例年通りあり、5月12日がその募集締め切りであることから、どのタイミングで大会開催の方針をアナウンスすべきかという議論も行いました。決定の時期をもう少し先にして、通常開催が真に不可能であることが決定的になった時にWeb開催のアナウンスを行うことも可能ではありましたが、私共としては、会員の皆様方に、速やかに、正直に、決定したことをお伝えした上で、大会への参加をお願いしたいと考えました。


大会を Web 開催することは初めての試みであり、大会組織委員会にも参加者にも不安があります。Web開催に関するご意見は当然のことながら、賛否両論があると思います。ただ、私共としましては、会員の皆さん方に発表の場を提供したいということが一番の気持ちです。伝統的に生化学会大会は、若手研究者が口頭発表できる機会を多くすることを心がけ、一般口演セッション毎に優秀発表賞を選出するという方針で行ってまいりました。大学院学生を含む若手研究者の方々は実験が制限され、研究が進捗しない苛立ちや不安があろうかと思いますが、現時点での成果をもって応募していただくことをお願いいたします。人前で発表するということを通じて、研究成果をまとめたり、ラボのメンバー以外の意見を聞くということは、研究遂行にあたり大変重要な過程です。是非大会での発表をそのような場にしていただきたく思います。その支援のために、私達は全力を尽くします。


Web 開催をどのようにするかは、これから大会組織委員会で詳細を決めていきます。すでに行われた他の大会のWeb 開催の様子も参考にしながら、双方向性講演等の手法も一部取り入れ、皆様にとりまして有意義な大会になるように最善を尽くします。平時であれば、このような取り組みをすることはまずないと考えられますが、今回私達は大きな社会実験を行う事態に遭遇しました。是非、この試みに積極的にご参加いただき、新たな大会のあり方を考える場となるようにしていただきたいと思います。


会長としまして、財務的なことも少しお伝えしたいと思います。実は大会を開催するにあたっては、私達の参加登録費と生化学会本部からの補助金は全予算の約 45%を賄うにすぎません。残り約 55%は企業展示収入や財団からの寄附等により賄われています。今回、Web 開催を決定したことにより、企業や財団からの収入はほとんど期待できません。一方で、会場のキャンセル費やこれまでの経費、Web 開催用の新たなシステムの構築等の費用は発生します。日本生化学会は公益社団法人として堅実な財政状況にあり、今回の大会形式の変更により生じる赤字に対しても対応していける体力はあります。しかし、大会は赤字を出さずに運営することが基本であり、学会本部からの支出が増えますと、公益社財法人としての各種活動の取り組みが削減されることにもなりかねません。そのためも、会員の皆様方が例年通りに、大会に参加していただき、学術的にも運営的にも、生化学会を支えていただくことが必要になります。皆様方のご理解と行動により、本大会を不安視することなく開催できるようお願いいたします。


アルバート・アインシュタイン博士は次のように言っておられます(「46 の名言とエピソードで知るアルバート・アインシュタイン」から)。“Out of clutter, find simplicity. From discord, find harmony. In the middle of difficulty lies opportunity.”」。私は、「私達は一つの事象からその対極にある事象を見出し、困難の中に新たな機会を見つけることができる」と解釈しました。皆様は如何でしょうか? 私達は今、不確実で混とんとした状況の中にいて、先が見えない毎日を生きています。一方で、新たな試みもなされており、今後の社会変容をきたす兆しもあります。大会の Web 開催もまさにその一つであり、是非多くの会員の皆様方に例年通りご参加いただき、実りのある大会となるようにご協力をお願い申し上げます。


4 月 13 日に行われました理事会では重要な決議をいくつか行いましたので、それは次回の会長だよりで報告させていただきます。会員の皆様方におかれましては、健康に留意されて、教育、研究活動が一日でも早く元の状態になるように、ご協力、ご尽力下さい。


2020年5月7日

会長 菊池 章