若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-
糖鎖・脂質・タンパク質研究の魅力大阪大学 微生物病研究所
藤田 盛久
この度は、私のようなものに栄えある賞をいただきまして、誠にありがとうございます。これまで御指導くださいました地神芳文先生(産業技術総合研究所)、木下タロウ先生(大阪大学)をはじめ、多くの皆様に深く感謝申し上げます。
私は田舎生まれのため、子供の頃から近くの山野を駆け回っておりました。そんな中で、自分や生き物の体(細胞)で今何が起きているのか、どんな反応が起こっているのかを知りたいと興味を持つようになりました。もともと高校の教員になりたいと思っておりましたが、学部4年の時に神坂泰先生(産業技術総合研究所)にお世話になり、リン脂質代謝に関わる酵素の精製をはじめると実験が面白くなってきました。大学院で地神先生の研究室に配属されてからは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーと呼ばれる糖脂質について学び始めました。GPIアンカーはタンパク質に修飾されるため、糖鎖・脂質・タンパク質を一度に研究できる非常に魅力な(後に非常に手強いと分かるのですが、)研究テーマに思えました。
当時、GPIアンカーの研究は哺乳動物細胞や出芽酵母の変異株の解析から、GPIの生合成に関わる20種類以上の遺伝子が次々と同定され、生合成経路のほとんどのステップに関わる遺伝子が決定されておりました。しかし構造学的な解析から、タンパク質に修飾される前と修飾後の細胞表面に局在するGPIアンカーではその構造に違いがあることが明らかになっておりました。このことからタンパク質に修飾された後、GPIは構造変化を受けることが示唆されておりました。幸運にも、そのうちのGPIの脂肪酸を入れ替える反応に関わる遺伝子を同定することができ、それがGPIアンカー型タンパク質の脂質ラフトとの会合に重要な役割を果たすことを示すことができました。またGPI糖鎖部分の構造変化が修飾タンパク質の小胞体からの効率的な輸送に必要であることを示すことができました。
よく「GPIはどうしてあんなに複雑な構造をしているのですか?」と聞かれます。確かに細胞膜にタンパク質を繋ぎ止めるだけであれば、もっと単純な形で良い気がします。これについては明確な答えを持っておりませんが、その構造の一つ一つに何らかの意味があるのではないかと思っております。今後、GPIアンカー構造の普遍性と多様性について、その機能の一端を明らかにできたら大変嬉しいです。私はまだまだ未熟であり、自分に自信を持てておりませんが、1つ1つの現象に正対して、基礎的な土台をしっかりと築きながら本質を学ぶ姿勢を大切にしていきたいと考えております。