若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

「硫酸、硝酸、核酸」という順番名古屋大学大学院医学系研究科 内村 健治 (平成24年度掲載)

column1栃木県のとある古書店で一冊の本をやっと見つけた。僕が産まれた年に刊行された「生化学の諸切片」という教科書である*。実はこの副題に僕は心がひかれた。副題は 「硫酸、硝酸、核酸」である。 私は学生のころから今に至るまで硫酸、特に糖鎖の硫酸基修飾を対象に研究を行っている。硫酸が核酸より順位が上ということは当時硫酸が核酸よりも重要だと認識されていたのではないかと勝手に思い込んでしまった。今でも硫酸の潜在機能に心を躍らせ研究を進めている。 糖鎖の構造は何万通りにもなり非常に複雑なのかもしれないが難解なものほどヒトをよく引きつける。シンプルな実験系とごくわずかな図で硫酸化糖鎖の生物機能の説明ができるようになりたい。上記教科書の刊行から40年たった今どんな教科書が書けるか楽しみである。 私は大学院生時代に新規な糖鎖硫酸転移酵素遺伝子の発見とクローニングおよび命名に携わることができた。その後当該遺伝子ノックアウトマウスの作製および解析に従事し、多くの糖鎖硫酸化の生物機能を明らかにすることができた。中でも、 細胞表面セレクチンリガンド糖鎖の合成におけるGlcNAc6位硫酸化反応の重要性およびそのリンパ球の血管内皮細胞上におけるローリング速度の規定をあきらかにできたことは非常にうれしかった。切磋琢磨している同分野の研究者の方々に自分が受入れられた気がして至上の喜びであった。私は幸運に恵まれている。恩師、また多くの同僚に支えられた研究環境に恵まれている。硫酸研究における生化学と生物学の重要性を教示くださった村松喬先生、門松健治先生、神奈木玲児先生、スティーブン ローゼン先生、 硫酸研究の出会いをくださった羽渕脩躬先生、木全弘治先生にこの場をお借りして感謝申し上げます。

*講談社サイエンティフィックより刊行。編者および執筆者に鈴木旺先生、江上不二夫先生ら蒼々たる先生が名をつらねている。
(写真:マチュピチュ遺跡は普段住んでいる場所からはまったく見えないが視点を変えると一望できる。今後も硫酸という視点で私は研究を遂行していきたい。)