若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

生化学研究の道を歩んで~心に残る出会いと言葉神戸大学大学院 医学研究科
金川 基

奨励賞2013-5「生化学って面白い」と思ったのは、学部での生化学実習の時です。生体試料からタンパクを精製し、その酵素学的な特徴をひとつひとつ調べあげる実験が、ゲル上でCBBに染まっているにすぎなかったタンパクに生命的な息吹(=個性)を与えるような感覚を覚えました。教科書に書かれている酵素反応論が一気に身近に感じられた瞬間でした。このようなドラマチックな出会いがあったおかげか、今日まで20年近く生化学研究に携わっています。私は大学院時代、谷口和弥先生から、タンパク質リン酸化によるP型ATPaseの調節機構に関するテーマをいただき、リン酸化酵素の同定やリン酸化の生理的意義の解明に挑戦しました。ナイーブな膜型酵素の精製に苦心しましたが、諸先生・諸先輩の温かいご指導のおかげもあって、粘り強く実験できたことが、その後の研究人生の土台になったと思います。学位取得後は、筋ジストロフィー研究の世界的リーダーのひとり、キャンベル博士の下に留学しました。留学開始当初、英語も満足に話せなかった私はひとり、定量的タンパク結合実験系の構築に取り組んでいました。そんな折、ひとりの同僚がその実験系を取り入れ、ある病型の筋ジストロフィーでは、ジストログリカンの糖鎖修飾に異常がみられ、リガンド結合活性が低下しているというデータをだしたのです。糖鎖異常型筋ジストロフィー研究のさきがけとなる論文に、留学開始早々に立ち上げた生化学実験系が用いられたことは今でも幸運に、そして誇りに思います。それ以来、私は糖鎖異常型筋ジストロフィーの研究に入りこんでいくのですが、私の心に残る師の言葉があります。この場をおかりして、その言葉を紹介したく思います。ひとつは、”You are not a homerun batter, but I like your style aiming at a sure hit. Four hits equal a homerun and still keep a chance”。もうひとつは、”Only CNS papers (= homerun) help your carrier, so I want to help you guys”。ヒットとホームラン、どちらがお好みでしょうか・・・?この二つの言葉は相反する意味ではありますが、事ある度に思い出しては、自身の研究を見つめ直し、そして気を新たにする言葉です。私は現在、糖鎖修飾の生理的・病的な意義の解明とトランスレーショナル研究への発展を目標に疾患研究・治療研究に携わっていますが、これからも愛すべき生化学をベースとした研究の道を歩み拓いていきたいと思います。ホームランバッターではない私が今日まで研究を続けてこられたのも、よき指導者の先生や共同研究者の先生、同世代の研究仲間達、そして、優れた同僚に恵まれたお陰です。心から感謝しています。最後に、大学院時代の師、谷口先生がいつも私たちにくださる言葉を紹介したく思います。「良い仕事をすれば、どこかで誰かが見ていてくれる」。この言葉に励まされ、また、今日一日の研究を大事にしようという気持ちと生化学道を歩み続ける勇気が湧きあがってきます。

金川 基 氏 略歴

2001年    北海道大学大学院理学研究科化学専攻博士後期課程修了(生物化学:谷口和弥教授)
      同年ハワードヒューズ医学研究所/アイオワ大学医学部博士研究員(Kevin Campbell教授)
2006年 大阪大学大学院医学系研究科(戸田達史教授)
2009年 神戸大学大学院医学研究科助教(戸田達史教授)
2011年より現職