若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

SNAREと仲間に支えられた研究人生東京薬科大学生命科学部
新崎 恒平

 この度、日本生化学会奨励賞を頂けましたことを心より光栄に存じます。
私の研究生活は、東京薬科大学・分子細胞生物学研究室に所属したところから始まります。本研究室の教授である多賀谷光男先生はJames Rothman博士の元で膜融合装置であるSNAREの研究を行い、東京薬科大学に赴任後もSNAREの研究を続けておられました。そのような関係で、私が取り組んだテーマはSNARE分子の一つであるsyntaxin 18とその複合体の解析です。これから研究を頑張るぞ!と意気込んでスタートした研究生活ですが、当初は何をやっても上手くいかず落ち込む日々が続きました。しかし、そのような時は同期や先輩が“頻繁に”飲み会を開催し激励してくれました。そして、その時によく言われた「色々やっていれば、そのうち結果出るから焦るなって」という言葉に今も支えられています。その後、徐々に結果も得られ無事博士の学位を取得することが出来ました。そして、次に私が選んだ道は海外への挑戦でした。
そして、留学先として選んだのがYale大学のCraig Roy博士のラボです。Craigのラボではレジオネラ(重篤な肺炎を引き起こし、宿主細胞内の輸送経路を制御する細菌)の細胞内発症機構の解明を行なっており、大学時代に打ち込んだ研究はレジオネラ感染の理解に役立つと信じYale大学での研究生活を開始しました。しかし、渡米直後は思い描いていた「留学生活は夢と希望に満ちあふれている」ものとはほど遠い、ホームシックな毎日でした。と言いますのも、その時の海外留学が人生初の一人暮らしとなり、【不慣れな一人暮らし】+【文化や言葉の壁】というダブルパンチに打ちのめされました。そのような状況から鬱々とした日々を送っていましたが、ここでも助けてくれたのは周りの仲間でした。私のへたくそな英語にも親身に耳を傾け、不安や悩みの相談に乗ってくれました。そして、気がつけば言い合いが出来る程に親しい間柄になっていました。この時の仲間とは今でも連絡を取り合っており、海外に仲間が出来たことは留学した一番の収穫だと感じています。なお、留学先では、レジオネラ感染特異的な宿主SNARE複合体の同定とその制御機構の解明を行ないました。
その後、海外での生活を終え、教員として東京薬科大学・分子細胞生物学研究室に戻りました。帰国後より取り組んでいるテーマはsyntaxin 17 (Stx17) の機能解析です。
Stx17はオートファジーに関連するSNAREタンパク質ですが、通常状態の役割を明らかにするのが私のテーマでした。そして、本テーマの遂行に際しても多くの壁や苦労がありましたが、この時に支えてくれたのが“学生”という仲間です。学生と一丸となってこのテーマに取り組んだ結果、Stx17にはミトコンドリアの分裂制御やアポトーシスの促進といった役割もあることを見いだし、本受賞に繋がる研究となりました。このように、私の研究はSNAREと多くの仲間に支えられてきましたが、今後も「人生をかけて追求したいテーマ」と「助け合える仲間」を大切にして研究に取り組んで行きたいと思います。

 

 

新崎 恒平 氏 略歴
1998年 東京薬科大学・生命科学部・分子生命科学科 入学
2001年 東京薬科大学・生命科学研究科・修士課程 入学
2003年 東京薬科大学・生命科学研究科・博士課程 入学
2007年 Yale大学・医学部・感染症発症部門 博士研究員
2011年 東京薬科大学・生命科学部・助教
2015年 東京薬科大学・生命科学部・講師