若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-
「自分の世界を」東邦大学医学部
森脇 健太
この度は日本生化学会奨励賞という栄誉ある賞をいただき、大変光栄に思っております。これもひとえにこれまでご指導をいただいた先生方・先輩方、一緒に実験をしてくれた後輩たち、また多大なるサポートをいただきました共同研究者の方々のおかげであり、この場を借りて心から御礼申し上げます。
「自分の世界を」。私が博士課程のときにある先生からいただいた年賀状に書かれてあった6文字です。それ以外に言葉はなくとも、この6文字が研究者が何たるものかをはっきりと表しており、私の胸にズドーンと響き、正月でだらけていた背筋がピンっと伸びたことを今でも覚えています。博士課程でネガティブデータの波に溺れそうになっていた自分にとっては大きなプレッシャーで、自分は研究者としてやっていけるのかと不安に感じる一方で、そんな「自分の世界を」持つ研究者になりたいと強く思い、これまでを過ごしてきました。
私の研究生活は、大阪大学医学部生化学講座で三善英知先生と谷口直之先生のご指導のもとで始まりました。癌との関わりが古くから知られていたフコースという糖を含む糖鎖の合成がどのように制御され、どのような機能を持つかについての研究を行っていました。当初、過去の研究やラボの先輩の研究を参考にして似たような実験をしていましたが、三善先生に「そんなものは三番煎じだ」と叱られたことを覚えています。ネガティブデータの波に溺れながら色んなことを試していたときに、運よくこの糖鎖が細胞死を制御するという結果に出会い、無事に学位を取得することができました。学位取得後にどのような研究に取り組むかを考えていたときに、当時まだよく分かっていなかった制御性ネクローシスに興味を持ち、留学し、今に至っています。
現在、われわれの体にはアポトーシス以外にも、複数の細胞死の様式が存在することが分かってきています。その多様な細胞死を引き起こすための独立した分子システムが、局面に応じて作動するようにプログラムされています。そのシステムはどう制御され、生体内でどのような役割を果たしているのか。そもそもそのシステムの確立には死を引き起こすための合目的性があったのか、なぜそんなにも多様なシステムをわれわれは持っているのか。今はそんなことに興味を持って研究をしています。
これまでの研究生活、いつも「自分の世界を」という言葉を胸に歩んできました。ようやく「自分の世界を」確立しましたね、と言ってもらえるようにこれからも、本奨励賞を励みにして研究に精進していきたいと思います。
森脇 健太 氏 略歴
2010年 大阪大学大学院医学系研究科 博士課程修了
2010年 大阪大学大学院医学系研究科 研究員
2011年 マサチューセッツ州立大学医学部 研究員
(2012-2013年 日本学術振興会海外特別研究員)
2016年 大阪大学大学院医学系研究科 助教
2020年 東邦大学医学部 准教授