若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

好きこそ物の上手なれ公益財団法人がん研究会がん研究所
立和名 博昭

 この度は日本生化学会奨励賞を受賞することができ、大変嬉しく思っております。今回は大学院生の時から行ってきたヒストンバリアントの研究に対して評価をいただけました。私なりに受賞できた理由を考えると、研究にのめり込めたからだと思います。その経緯について簡単に紹介させていただきます。

 私は早稲田大学理工学部の電気電子情報工学科に所属していました。学部では生命系の基礎実験すらなく、授業もいっさいありませんでした。私が4年生に進級するタイミングで電気電子情報工学科に生命系が融合されることになりました。そのため、私たち4年生に配られた研究室一覧の資料には授業を受けたこともない生命系の研究室が加わっていました。生命系の先生がたは人間科学部から異動されてきた先生でしたので、研究室は行ったことのないキャンパスにあり、当時の短い配属決定期間に話を聞きに行こうとは思いませんでした。ただし、理化学研究所から異動されてきた胡桃坂先生の研究室は通い慣れたキャンパスにありましたので(当時は実験台もなくスペースがあるというだけでした)、興味本位で話を聞きに行きました。その結果、胡桃坂先生の熱量に圧倒され、気がつけば胡桃坂研究室に配属となりました。偶然にも改組があり、生命系の教員の研究室で唯一通い慣れたキャンパスにあったから行ってみたという理由ですが、胡桃坂先生との出会いは間違いなく私の人生のターニングポイントでした。

 研究にのめり込むきっかけは、修士1年生の時に理化学研究所の胡桃坂グループのリバイス実験を手伝ったことです。M期染色体の一次狭窄部位であるセントロメアのヌクレオソームを試験管内再構成する実験が任されました。一連の実験の中でも、今でも忘れられないのは、ヒストンH2A-H2B複合体を再構成した実験です。H2A、H2Bをそれぞれ大腸菌内で発現させ、精製したものを等モル数ずつ混ぜ、ヘテロ二量体を再構成し、ゲルろ過カラムで精製を行うというプロトコルです。ゲルろ過カラムで分取したフラクションをSDS-PAGEで泳動してCBBで染色した後に、タッパーの上から脱色されていく様子を見ていると、綺麗にH2AとH2Bのバンドが同じ濃さで現れました。元々が工学系でしたので工作が好きということもあり、タンパク質の複合体が自分の手で作れたことを示すバンドの美しさに感動・興奮し、一気に再構成実験に夢中になりました。それからは、再構成方法を発展させながら数えきれない種類のヌクレオソームを作り、その性質や構造を解析しました。今も再構成ヒストンと培養細胞や組織切片を組み合わせた実験を行なっています。

 ここまで続けてこられたのは、熱中する対象があったからという一言に尽きます。実験が好きだという人は、研究を仕事にすることを考えてみてはどうでしょうか。好きこそ物の上手なれです。

 

 

立和名 博昭 氏 略歴
2004年 早稲田大学理工学部電気電子情報工学科 卒業
2009年 早稲田大学大学院理工学研究科電気・情報生命専攻 博士課程修了
2010年 早稲田大学 理工学術院 研究院助教
2012年 キュリー研究所(フランス、パリ)、博士研究員
2014年 早稲田大学 理工学術院 研究院講師
2016年 公益財団法人がん研究会 がん研究所 研究員