若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

報恩謝徳九州大学大学院農学研究院
松本 俊介

 この度は日本生化学会奨励賞という大変栄誉ある賞をいただきまして、誠にありがとうございます。選考委員の先生方には感謝申し上げます。

 私が今までの研究者人生で学んだことは、研究においては単独での活動よりも、多様な人々との交流や協力が重要であるということです。これからも、新しい出会いや協力関係を通じて、より良い研究を進めていきたいと思います。私の研究者人生は、学部4年生時に配属された九大農学部の微生物工学研究室(当時は園元謙二先生)から始まりました。私は先輩であった杉本真也さん(現、慈恵医大)の影響を受けて、分子シャペロンが介在するタンパク質の世界に興味を持ちました。分子シャペロンとは、簡単に言えばタンパク質のお世話をするタンパク質です。杉本さんの薦めもあって、特定領域研究『タンパク質の一生、社会』が刊行するニュースレターを何度も読んで、タンパク質の機能や働きにとても魅了されました。就職か進学か悩んだ末、神田大輔先生(九大)の研究室に進学し、学位を取得しました。神田研では、タンパク質の構造解析をメインに研究しました。神田先生からは研究技術や知識だけでなく、研究者として生きるための心構えを教わりました。神田先生が旧知の中である遠藤斗志也先生(京産大)を私に紹介していただき、遠藤先生にはタイミングよく声をかけていただきました。

 ポスドク生活を始めたばかりの頃、私はPNASとEMBO Journal誌に発表された論文に注目しました。その論文には、Msp1というタンパク質が誤ってミトコンドリアに局在したテイルアンカー(TA)タンパク質の分解に関わることが報告されていました。その後、Msp1は1993年に遠藤研で当時助手であった中井正人先生(現、阪大)によって発見された遺伝子であることに気づきました。Msp1は当時、ミトコンドリアの外膜に局在するATPアーゼであることが分かっていましたが、その機能については20年以上にわたって不明なままでした。私はMsp1に興味を持ち、遠藤先生にその旨を伝え、Msp1の研究を始めることになりました。先行研究では、Msp1がミトコンドリアに誤配送されたTAタンパク質を膜から引き抜いて分解系に回す役割を持つことが示されていました。しかし、私たちは誤配送TAタンパク質の中にはMsp1によって分解されないものがあることに気づきました。そこで、内在性のTAタンパク質は一度間違った先に送られたとしても、本来の局在化する場所に戻ることができるのではないかと考えました。この仮説は、ミトコンドリアに誤配送されたTAタンパク質がMsp1を介して小胞体に移動する様子を顕微鏡観察で直接確認することで証明されました。この研究により、DNAの複製や翻訳に見られる「校正」の機構が、タンパク質のオルガネラ配送においても存在することが示されました。

 2年半前から、私は母校である九大農学部の助教として働いています。現在は、タンパク質の配送校正に関する研究を継続しながら、石野良純先生(写真中央左)、石野園子先生(写真左端)そして沼田倫征先生(写真右端)などの所属研究室の方々と協力して、DNAの複製、修復、そしてCRISPRシステムなどの研究プロジェクトを進めています。私たちの学生たちが精力的に研究に取り組んでくれているおかげで、新しい研究がようやく成果を出し始め、今後の展開がますます楽しみになっています。

 

松本 俊介 氏 略歴
2007年 九州大学 農学部卒業
2009年 九州大学大学院 生物資源環境科学府修士課程修了
2012年 九州大学大学院 システム生命科学研究科博士後期課程修了
2012年 九州大学 生体防御医学研究所 博士研究員
2014年 京都産業大学 総合生命科学部 博士研究員
2015年 日本学術振興会特別研究員(PD)
2018年 京都産業大学 タンパク質動態研究所 博士研究員
2020年~現在 九州大学大学院 農学研究院 テニュアトラック助教 (現職)