若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

貫け独自の研究スタイル京都大学大学院医学研究科
佐々木 克博

 これまで歩んできた研究人生を振り返ると、私は大部分の研究者のように1つの生命現象の原理原則をとことん追求するタイプではなく、異分野を取り入れながら生命科学における新たなコンセプトの提唱を目指すタイプだったと思います。大学院時代から現在までに、タンパク質分解→自己抗原提示→T細胞分化→自己免疫疾患→Treg→自己炎症疾患>癌内炎症>癌免疫と興味対象を次々に発展させながら研究を進めてきました。1つのプロジェクトを遂行している間でも、この成果から自分にしか考えつかない独自の研究課題は何か?次のプロジェクトについて思考を巡らせるのが楽しみの1つでした。私は当初から分子探索にはあまり興味がなく、自然科学の分野で独自性を打ち出す別の方策はないか熟考した末、このような研究スタイルになったのだと思います。

 都度、異分野への新規参入や研究手法の立ち上げが必要となってくるわけですが、全く億劫ではなく、むしろ新たな世界に足を踏みいれる感覚で(大学院生の時のような何でも吸収してやろうという気持ちで)毎回新規プロジェクトに臨むことができました。約3-4年の周期で研究の場や環境を変えても、マウス実験主体の論文をその都度報告し続けてこられた理由が私のこの性格にあるのだと思います。研究を続けていくためには、他の奨励賞受賞者の方々が仰っているように飽くなき好奇心が絶対的に不可欠ではありますが、その好奇心の対象がどこにあるのか人それぞれ違うと感じています。これから研究者を志す方々はおそらく尊敬する先生がいるかもしれませんが、研究に対する姿勢や感性を見習う必要はあるにしろ、目指すべきものではなく、独自の理想とする研究者像を自分なりに確立することが大切なのではないかと思います。

 とはいえ、研究対象の変遷については弊害もありました。海外では全く異なる複数の研究領域で研鑽を積んだのち自分の興味のある研究を決定し進めていく人が多いようですが、国内ではそうでもないようです。ある程度若いうちから特定のコミュニティに属し、分野を変えずに研究を続けている方が論文も出やすいし、ポストも取りやすいのかもしれません。自身のキャリアプランについてはもう少し考えた方がよかったなと思っていますが、キャリアと自分の科学に対する興味のどちらを優先すべきかと問われれば、間違いなくこれまで通り後者を選んだと思います。どちらでも構いませんが、必要なのは後悔のない研究人生を送るため自分で決断して人生を切り開いていくことです。私は賞とは無縁と考えてこれまで研究してきましたが、「出してみたら?」と指導者である岩井一宏教授からお声がけ頂き、今回名誉ある生化学会奨励賞を賜ることができました。この受賞は自分のこれまでの決断が間違いではなかったことを初めて認識させて頂く機会となり、とても心強いものでした。自分の研究の重要性を認めて貰う非常にいい機会かと思いますので、若い研究者の皆さんは積極的に応募してみたら如何でしょうか。

 

 

佐々木 克博 氏 略歴
2002年 宮城県仙台第一高等学校卒業
2006年 東京理科大学 薬学部 卒業
2011年 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 博士課程(生命科学)修了
2011年 東京都医学総合研究所 協力研究員
2012年 UMass Medical School, MA, USA 博士研究員
2014年 京都大学大学院 医学研究科 特定研究員
2018年 京都大学大学院 医学研究科 講師