若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

人間万事塞翁が馬 ― 出会いを大切に冒険しよう東京大学大学院医学系研究科
小嶋 良輔

 この度は、日本生化学会奨励賞という名誉ある賞を頂き、これから一層挑戦していかなければと身の引き締まる思いです。これまでご指導いただいた先生方、そして共に研究に取り組んで下さっている共同研究者の皆様・学生諸君にこの場を借りて心より御礼申し上げます。私の研究は、化学や合成生物学の力をうまく組み合わせて駆使し、生体機能を操作することに主眼を置いています。生命現象を化学的観点から徹底的に理解しようとする生化学の王道とは、いわば逆のアプローチであるにも関わらず、こうした研究を評価していただいた生化学会の懐の深さに、改めて感謝しております。

 さて、この「若手研究者に聞く」の寄稿にあたり、自分が学生の頃にこういった場で何を読みたかったかを思い返してみると、「それぞれの人がどうやって今の研究哲学やキャリアに至ったか」という、N=1の体験談でした。そこで今回は、私のこれまでの紆余曲折を少しだけ綴らせて頂きたいと思います。

 私自身、元々は「ものづくり」が好きで、建築を学ぼうと志して大学に入学しましたが、当時東大薬にいらした有機化学者・福山透先生の「有機合成はまさに分子建築である」という言葉に感化され、薬学の道へ進みました(注: 福山先生の個人HPにある「研究者ノート」は、一人の化学者の熱い歴史が語られており、N=1の刺激的なエピソードとして必読です) 。しかし、希望した合成系の研究室の配属にクジ引きでもれてしまい、思わぬ形で免疫学の研究室に加入することになりました。当時はショックでしたが、これが生物学の面白さに触れるきっかけとなり、作った分子で生命を操るケミカルバイオロジーの道を志す契機となりました。

 その後、長野哲雄先生・浦野泰照先生のご指導のもと、「分子いじり」の楽しさに没頭していましたが、2011年に東日本大震災が起きました。電力不足で実験が制限されるかもしれないということで、それなら海外に行こうと思い立ち、研究室の大先輩であった井上尊生先生(Johns Hopkins)のラボに短期留学させて頂きました。ここで、生体分子をパーツにして新しい細胞機能をつくっていく「合成生物学」に出会い、これがその先の研究の方向性を考える重要なきっかけになりました。海外ポスドク応募時には、あえてコネがないところで戦ってみようと、興味のあるラボにメール, FAX, 印刷した郵便など様々に駆使してコンタクトを取り続けた結果、唯一受け入れて下さったのがETHのMartin Fussenegger教授でした。そこで学んだ細胞・タンパク質いじりの技術が、現在の私の重要な基盤となっています。

 スティーブ・ジョブズ氏の有名な言葉に”Connecting the dots”がありますが、振り返れば、思わぬクジ引き結果も、震災をきっかけとした留学も、当時は予想もしなかったdotsでした。ポスドク先の選択では、なるべく遠くにdotsを打とうともがきましたが、結局受け入れ先とのマッチングは縁であり、自分でコントロールできないことも多々あります。これから研究者を志す皆さんも、思い通りにいかない現状や、偶然の出来事に戸惑うことがあるかもしれません。しかし、「人間万事塞翁が馬」です。それぞれの場での出会いを大切にしつつ、そこで来た波に全力で乗って冒険してみてください。私のケースでもそうだったように、そこでの足掻きこそが将来のオリジナルな研究を形作る重要なdotsになっていくのだと思います。

 

小嶋 良輔 氏 略歴
2005年 駒場東邦高等学校卒業、東京大学理科一類入学
2009年 東京大学薬学部卒業
2014年 東京大学大学院薬学系研究科 博士課程修了, 博士(薬学)
2014-2017年 ETH Zurich, HFSP long-term fellow
2017-2021年 東京大学大学院医学系研究科助教
2017-2021年 JSTさきがけ研究員(兼任)
2022年- JST創発的研究支援事業創発研究者
2022年- 東京大学大学院医学系研究科准教授