若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

問いを持ち続けるということ筑波大学生命ダイナミクス研究センター
藍川 志津

 この度は、日本生化学会奨励賞という栄誉ある賞を賜り、心より御礼申し上げます。本稿を通じて、これまでの歩みを振り返りながら、若い世代の皆さんにささやかなメッセージをお伝えできればと思います。

 私が「なぜ妊娠はこれほどまでに不思議なのだろう」と考え始めたのは高校生の頃でした。医療がここまで発展しているにもかかわらず、不妊の多くはそのメカニズムすら十分に解明されていない。その事実がどうしても腑に落ちませんでした。インターネットも満足に通らないような田舎から、勢いだけで東北大学薬学部へ進学しましたが、あのとき抱いた素朴な疑問が、今の研究の原点になっています。

 学部時代、幸運にもLPAの研究を通じて着床機構の一端を解明された青木淳賢先生と出会いました。青木先生は脂質生化学の第一人者でいらっしゃいましたが、生殖はご専門ではなく、子宮や妊娠については自分で一から学ぶ必要がありました。当時は手探りの連続でしたが、脂質というあらゆる生物に共通する普遍的な分子に軸足を置き、それを通じて妊娠という極めて特殊で精緻な現象を理解しようとする視点を得られたことは、その後の研究の軸になりました。

 学位取得後は、着床研究の第一人者であるSK Dey教授のもとへ留学しました。当初は必ずしも受け入れを前提としていなかったと後に伺いましたが、青木先生の論文を査読されていたご縁や、のちに上司となる廣田泰先生の後押しもあり、研究室の一員として迎えていただきました。留学して初めて、自分は子宮のことを分かっているつもりになっていただけで、実際にはほとんど何も知らなかったのだと痛感しました。異なる研究文化の中で、自分の未熟さと向き合った時間は、研究者としての姿勢を見つめ直す大切な経験でした。

 また、海外での研究を継続するうえで大きな支えとなったのが、日本生化学会の「早石修記念留学助成金」に採択していただいたことです。研究に専念できる環境を与えていただいたことに、心より感謝申し上げます。

 ここで少しだけ現実的な話をすると、私は博士課程の間、学振DCを一度も取得できませんでした。けれども研究そのものを続けたいという気持ちは揺らがず、学位取得後に留学を経験し、帰国しました。帰国時には様々な事情もあり、見つかったポジションはポスドク職でした。そのまま研究を継続する道を選び、結果としてポスドクとしての期間は合計9年間(うち3年間は海外留学)になりました。

 そしてこの春から、筑波大学にて独立准教授として研究室を主宰する機会をいただくことになりました。ある時点では遠回りに見える時間も、後から振り返ると必要な準備期間だったと感じることがあります。少なくとも私自身は、「うまくいっている人の経歴」に自分を無理に合わせるよりも、その時点でできる最善を積み重ねていくことで、道が次につながっていくのを何度も経験しました。

 若い皆さんには、周囲と比べすぎず、自分の問いを大切にしてほしいと思います。評価や結果がすぐに出ないこともありますが、研究は積み重ねです。続けること自体が力になります。皆さんそれぞれの問いが、次の生化学を切り拓いていくことを願っています。

 

藍川 志津 氏 略歴
2012年 東北大学薬学部創薬科学科卒業
2014年 東北大学大学院薬学研究科生命薬科学専攻 修士課程修了
2017年 東北大学大学院薬学研究科生命薬科学専攻 博士課程修了
2017年 シンシナティ小児病院医療センター 研究員
2019年 日本学術振興会海外特別研究員
2020年 東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科 特任研究員
2026年〜 筑波大学生命ダイナミクス研究センター 独立准教授