若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

自分の結果を大切に東京大学大学院薬学系研究科
大戸 梅治

photo-h28-2このたびは、自然免疫系Toll様受容体の構造生物学的研究に関して日本生化学会奨励賞を授与いただきまして大変ありがたく存じます。私がこの研究を始めたのは修士1年のときですので、もう10年以上にわたって続けてきたことになります。当時、Toll様受容体の存在すら知らなかった私に、エンドトキシンショックの原因物質であるリポ多糖認識に関わるTLR4の共受容体であるMD-2という蛋白質の構造解析のテーマが与えられました。それからちょうど4年かけて、博士課程3年の秋にようやく構造決定することに成功しました。昨今の構造生物学を取り巻く熾烈な研究競争の状況を考えると、わずか200残基にも満たないこの小さな蛋白質の構造解析に4年もかかることが許されたのは大変幸運であったと思います。実際、この結果を論文として発表した数ヵ月後にTLR4とMD-2の複合体の構造決定が他のグループから報告されていますので、学位を取れただけでも運がよかったと今では感じています。現在、ある生命現象に関わる蛋白質の機能が報告されると、それと同時に構造解析レースのスタートが切られ、ある人は勝者となり、他は敗者となります。自分がやらなくても他の誰かがやるのであれば、そのレースに加わる必要はあるだろうかと最近よく考えますが、正直よく分りません。ただ、競争とは関係なく、手をつけた蛋白質の構造はやはりその目で見たいと思うものですし、誰も見ていないものを見るというのはそれ自体面白いものです。

話しが逸れましたが、本稿は若い人に向けてということですが、私自身研究に対して大した思想も理念も持ち合わせておりません。ですので、長期的な研究に対するコメントは控えますが、短期的な研究に関していえば、自分の実験結果をしっかりと身につけよう、ということです。実験自体失敗していた結果、期待通りの結果、予想外の結果、全く解釈不可能な結果、いろいろあると思います。都合の良い結果を取り出すのではなく、また、ネガティブな結果に心折れるわけでもなく、それらの結果について適切に重み付けをしたうえで、それらを踏まえて最も高い期待値のほうへと進むのが大事ではないかと思います。自身の結果を適切に評価できるのは自分しかいません。

 

大戸 梅治 氏 略歴
2004年  日本学術振興会特別研究員(DC1)
2007年  東京大学大学院薬学系研究科 博士課程修了 博士(薬学)
2007年  東京大学大学院薬学系研究科 助教
2013年~ 同 講師