若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

継続は力なり久留米大学医学部
杉島 正一

photo-h28-1 この度は「ヘム代謝関連酵素の構造生物学的研究」という研究課題に対して、日本生化学会奨励賞という歴史ある賞を頂き、関係の諸先生方に熱く御礼申し上げます。今後、この賞に恥じないように研究に邁進していく所存です。私は高校生の頃に読み漁っていた様々な本の影響や、大学の講義の中で、タンパク質の立体構造に興味を抱き、大阪大学の福山恵一先生の指導の下、タンパク質の結晶構造解析に取り組むようになりました。配属時に提示されたいくつかの研究テーマから、私が選択したのが、ヘムをビリベルジンへと分解するヘムオキシゲナーゼ(HO)の結晶構造解析です。HOはヘム代謝において中心的な役割を果たす酵素で、鉄の恒常性維持、酸化ストレスに対する防御、種々のシグナル伝達反応に関与する興味深い酵素です。この酵素の研究は、久留米大学の野口正人先生との共同研究として、私が福山研究室に配属される少し前から始まっていたものです。当時、HOの立体構造は不明であり、私も重原子同型置換法などによる構造決定に取り組んでいましたが、残念ながら米国の研究グループに先を越されてしまいました。私は修士課程一年でしたので、企業への就職も考えていましたが、このような「挫折」をバネに、さらに研究に取り組む事にした結果、最初に明らかにされた基質複合体以外の反応中間体複合体などの立体構造解析において、先駆的な結果を出す事が出来ました。

 また、最近ではHO反応に必要な還元力を供給するNADPH-シトクロムP450還元酵素(CPR)とHOの複合体の構造解析にも成功しました。変異CPRを使ったCPR-HO複合体の安定化がブレイクスルーとなりました。これは先に述べた「挫折」を味わっていた頃から、久留米大学に赴任した後も「継続」的に、15年近く同じテーマに取り組んだ結果、得られた成果です。

 学生や若手研究者の皆様も、研究を続けていく過程で様々な困難にぶつかることがあるかと思います。一旦はその困難から逃れて、別のアプローチを探されるのもいいでしょう。私もヘム代謝関連ではありますが、HOやCPR以外のタンパク質の構造解析にも取り組んでいます。タイトルは言い古された言葉ではありますが、ぜひ最初に思い描いていた構想から外れずに、「継続」的に研究を進めてみてください。きっとわくわくする結果があなたを待っています。

 

杉島 正一 氏 略歴
2004年 大阪大学 大学院理学研究科 博士後期課程修了
2004年 博士(理学)取得
2004-2005年 大阪大学 大学院理学研究科 特任研究員
2005-2007年 日本学術振興会 特別研究員PD
2007-2008年 久留米大学 医学部医学科 助教
2008-2012年 久留米大学 医学部医学科 講師
2010-2012年 シカゴ大学へ客員研究員として留学(Keith Moffat教授)
2012年から    久留米大学 医学部医学科 准教授