若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

詰将棋的研究と数手先しか読めない研究国立遺伝学研究所
北川 大樹

 将棋の名人戦などでよくみる長考の際に、トップレベルの棋士はどの程度先の手を読んでいるのでしょうか?その局面にもよりますが、意外にも十手先を読むのもなかなか大変ということを聞いたことがあります。大局的に考えながら、全体的な場を直感的に捉えながら、進めていくというのが常なのだと思います。研究に関しても様々な局面がありますが、端から全過程予想通りの結果が出る研究などありえるはずもなく、多かれ少なかれ予期せぬ結果に対応しながら進めていくというのが普通のあり方だと思います。

 そのような中でも、最初いくつかの仮説が検証できてしまえば、後は全体のスキームが比較的しっかり組める詰将棋的研究と、とりあえず外郭にしか触れられないが、暗中模索の中進んでいくような数手先しか読めない研究、に大きく分けられるような気がします。どちらも研究の重要な要素で、どちらも経験しておくこと、状況に応じて織り交ぜながらバランス良く研究を進めていくことが肝要だと考えています。詰将棋が棋士の基礎であるように、詰将棋的研究の進め方を学ぶことは、研究者として生きていくためのトレーニングとして重要だと考えます。意外に詰め切らないで面白い展開になる場合もありますし、テンポよく重要な研究を発信していくこと、それを体感することは大事だと思います。一方、自分が本当に重要と考え、興味がある課題であり、独自性/新規性を十分に発揮できそうな研究(且つ皆があまりやらなさそうな研究)に関しては、数手先しか読めなく、端緒に就くのも極めて困難な場合が多いように思えます。しかし、その問題を正面から受け止め、持続的に取り組み続ける信念というのか、覚悟というのか、心の余裕を持つことも長期的に考えた場合大事なのではないかと感じています。

 これまで、細胞小器官である中心体の構造体としての成り立ち方、中心体の複製機構の研究に従事してきましたが、自分で納得している研究ほど、手探り状態で始めた研究が多い気がします。ただ、疑問を持ち続け色々試してみることで、自ら打開できたり、人との出会いや新しいテクノロジーで解決できたり、振り返ってみると本当に不思議な仕事の成り立ち方をしており、研究の醍醐味を感じます。紆余曲折はありながらも、ターニングポイントでは、数々の失敗から蓄積された経験に基づく直感のようなものが働いていた(と思いたい)とも感じています。詰将棋は基本ですが、訳がわからないけど面白いと思うことに挑戦して数々の失敗をすることは決して無駄ではなく、それを糧にすれば直感は磨かれます。逆に、賢くなりすぎて“できる研究”に流れていくばかりでなく、“本当にやりたい研究”を堅持していくことが大切であるし、難しいことなのだとも感じます。私自身がそのような姿勢を実践できているかは甚だ疑問ですが、少なくとも自問自答はしていますし、ラボメンバーとも時折議論しています。

 最後になってしまいましたが、このような歴史ある賞をいただき関係の諸先生方、またこれまでご指導いただいた先生方にこの場を借りてお礼申し上げます。

 

北川 大樹 氏 略歴
2000年 東京大学薬学部薬学科卒業
2005年 東京大学大学院薬学系研究科 博士課程修了(薬学博士)
2006年 日本学術振興会海外特別研究員(スイス実験癌研究所)
2008年 EMBOフェロー(スイス連邦工科大学ローザンヌ校生命科学科)
2011年 国立遺伝学研究所・新分野創造センター・特任准教授
2015年 国立遺伝学研究所・分子遺伝研究系・中心体生物学研究部門・教授
     総合研究大学院大学生命科学科遺伝学専攻・教授(兼任)