第20回JBSバイオフロンティアシンポジウム 国際硫黄生物学フォーラム(International Forum on Sulfur Biology)【redox week in Sendai 2022】

【オーガナイザー】
本橋ほづみ(東北大学 加齢医学研究所)
西田基宏(九州大学 薬学研究院)

【シンポジウムの趣旨】
硫黄は、他の原子の関与なく単独でカテネーション(同種の原子が直鎖状に連結している状態)を形成することができる唯一の元素である。硫黄カテネーションの大きな特徴は、求電子性と求核性を同時に有することである。この性質により、硫黄カテネーションを有する分子は、酸化還元反応を受けやすく電子移動の優れた媒体となる一方、反応性が高く分解を受けやすい。そのため、生体における硫黄カテネーションの存在はほとんど想定されてこなかった。しかし、近年の新しい計測技術の開発により、生体内に硫黄カテネーションが豊富に存在することが明らかになり、生体における重要性が示唆され始めている。そこで、我々は硫黄カテネーションを「超硫黄」、硫黄カテネーションを有する分子を「超硫黄分子」と総称し、生体における超硫黄分子の実態と役割の解明に挑んでいる。
超硫黄分子には、超硫黄を含む代謝物など低分子のものと、タンパク質のシステイン残基の側鎖に超硫黄を含むタンパク質とが存在する。超硫黄分子研究は、これまで我が国の研究者が世界をリードしており、超硫黄代謝物が抗酸化機能と抗炎症機能を有し、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生において必須の役割を果たしていることを見出した (Ida et al., PNAS 2014; Takahashi et al., Nucleic Acids Res 2017; Akaike et al., Nat Commun 2017; Zhang et al., Cell Chem Biol 2019; Marutani et al., Nat Commun 2021)。海外の研究者からも、超硫黄代謝物による抗老化作用 (Zivanovic et al., Cell Metab 2019)、硫黄によるミトコンドリア機能制御 (Kelly et al., Nature 2021) などが報告され始めている。超硫黄タンパク質の機能については、細胞内シグナル伝達や (Nishida et al., Nat Chem Biol 2012; Nishimura et al., Sci Signal 2019)、タンパク質の酸化障害防止 (Doka et al., Sci Adv 2020) における重要性が報告されている。このほか、酸化ストレス応答、小胞体でのタンパク質フォールディング、プロテオスタシス制御などに、超硫黄の隠れた必須の貢献が示唆されている。これまで看過されてきた超硫黄分子を考慮した新しい視点から、生命の基本原理を理解し直す時が到来したといえる。この新しい潮流は、本年、雑誌「生化学」の特集号として紹介させていただいたところである。
本研究領域は、令和3年度より学術変革領域A「硫黄生物学」に採択され、上述のような我が国発の新しい硫黄生物学研究を加速することになった。そこで、我が国で進みつつある硫黄生物学研究を世界の主要な関連研究者に発信するために、海外の超硫黄研究者とともに最新の研究成果を共有するために、そして、国内の若手研究者に超硫黄研究の面白さを伝えて本領域への参入を促すために、令和4年度に国際会議を開催する予定である。本国際会議は、我が国発の生化学の新しい展開を国内外に発信する重要な機会になると確信している。

【開催場所・開催日時】
東北大学星陵キャンパス(宮城県仙台市)
2022年10月28日(金)−11月1日(火)

※4つの国際会議を一挙にまとめ、redox week in Sendai 2022としても開催
https://www.no2022.jp/index.html

【主な招待者】
Elias Arnér (Karolinska Institute, Sweden)
Marcus Conrad (Helmholtz Zentrum München, Germany)
Miriam Cortese-Krott (Heinrich-Heine-University, Germany)
Gena deNocola (Moffitt Cancer Center, US)
Philip Eaton (Queen Mary University of London, UK)
Peter Nagy (National Institute of Oncology, Hungary)
Erika Pearce (Max Planck Institute, Germany)
Albert van der Vliet (University of Vermont, US)
David Wink (National Cancer Institute, NIH, US)