日本生化学会会員のみなさん、

 

今号では、研究機関における二つの新しい職業、ラボマネジャーとURA、について考えます。

 

ラボマネジャー(Laboratory Manager)

 海外の大学の研究室でラボマネジャーということばをよく耳にします。実験材料の分与を依頼した時などに“ラボマネジャーのSteveが対応するから”のように言われ、お手伝い的な雑用係と思っている人もいるのではないでしょうか。しかし実際はそうではなく、ASBMB Today誌の2013年10月号に掲載された‘How to become a good lab manager’という記事では、“ラボマネジャーはPIであるラボヘッドとは別に研究室のきりもりに責任を持つ正式な職”と紹介されています。米国の就職支援ウェブサイトAcademic Investにはこの職業の説明文があり、“ラボマネジャーは、研究室(所)がうまく機能するために、室員のスケジュール管理・研究室の安全性の確保・研究のための機器や材料の管理・予算の管理・ラボヘッドと研究員との関係調整、などの業務を担当する”と書かれています。

 従来は、研究者自身やベテラン技術者がラボマネジャーに求められる仕事の多くをこなしてきました。ラボマネジャーの登場で、彼らはこれらの業務から解放され、研究費獲得と研究遂行に集中できるようになったという訳です。ラボマネジャーは個々の研究室で採用される場合が多いですが、大学や研究機関が募集することもあるようです。

 

URA(University Research Administrator)

 みなさんの所属機関でこのようによばれる人を見かけませんか?これまで教育職員と事務職員の二つの職階だけが存在した大学に、URAという‘第三の職’が出現しました。URAは教育職員と事務職員の間に位置付けられ、研究にまつわるさまざまな仕事を効率的に進める役割を担います。海外ではサイエンスマネジャー(Science Manager)ともよばれます。私が勤務する大学では、既存部局とは独立した組織に所属するURAが、研究費の申請から獲得後の手続き・研究成果の国内外メディアへの発信・産学連携と知的財産に関係する手続きなどを支援しています(http://www.o-fsi.kanazawa-u.ac.jp/about/section/ura/)。

 “研究の立案や実施よりもその調整や支援業務の方が好き”や“政府組織などで科学政策の立案に関わるよりも研究現場に近い所で仕事をしたい”のように思う人は以前からいたはずです。URA職はそのような人たちの活躍の場と言えるでしょう。しかし、この職が各大学に定着してうまく機能するためには、解決しておかねばならない課題が残っています。すなわち、URAの業務が大学間で統一されて第三の職として正式に定められるとともに、給与体系・キャリアパス・評価システムを整える必要があります。URAを含めたResearch Administrator(RA)に関するさまざまな事項を検討する組織「RA協議会」が2015年3月に設立され、9月初めに最初の集会が開かれました。今後の活動に期待したいと思います。

 

ラボマネジャーの職に就くには当該分野の学士は必要ですが博士の学位はなくてもよく、米国での給与は5〜7万米ドルだそうです(Academic Invest)。既に日本でも、いくつかの大学や研究所ではラボマネジャーの募集が行われています。一方、URA職には博士の学位が求められる場合が多く、給与は職位や経験などにより決まるようです。大学での職として定着しつつあるURAはさらに拡大してゆくでしょう。そして、近いうちに両職とも大学や研究機関に欠かせない正規職として確立するはずです。ラボマネジャーやURAが本会会員の希望する大学・公的研究機関や企業での職業になる時代はもうすぐそこに来ています。

 

2015年9月

中西義信