日本生化学会会員のみなさん、

 

今号では男女共同参画の取組みについて考えます。

 

平成11年に「男女共同参画社会基本法」が定められ、内閣府の「男女共同参画局」が中心となり、さまざまな場面で“女性の参加比率を大きくする運動”が展開されています。本会においても「男女共同参画推進委員会」が活動しています。男女共同参画は社会構造に性の多様性を求めることを意味しており、生物学的な性が二つに分類されてきた経緯から“男女”となっているに過ぎません。さらに、真の意味で社会全般における多様性あるいは機会均等を実現させるのであれば、性別だけでなく人種・国籍・宗教・心身のハンディキャップの有無などへの適用も必要です。

 

多様性達成度の検証では“当該社会構造の母集団における割合を反映した数値”が目標にされることが多いです。しかし、このやり方は抽出時の判定基準となる適性や能力が母集団間で同程度の場合には成り立ちますが、どちらかの母集団で適性や能力の高い人の割合が高ければ抽出された時の割合も違ってくるでしょう。適性や能力が客観的に判定できる場面ではどちらの母集団も納得する抽出が可能ですが、主観により判定が違ってくる余地がある時には不公平が生じる可能性があります。男女共同参画の取り組みでは、多くの社会構造が男性優位にある現状で起こりうる不公平の解消のため、“適性や能力が同程度であれば女性を優先する”ことがしばしば行われます。

 

学術集会に関わる男女共同参画活動の目的のひとつに、シンポジウムなどでの世話人(オーガナイザー)や講演者における女性の比率を高めることがあります。海外の集会では、女性の割合が一定以上でないと集会そのものの開催が許可されない場合があります。この目的を達成させるために、世話人や招待講演者の候補となる女性研究者を集めたリストを活用することが提案されています(Invisible woman? Trends Cell Biol. 25:437)。この記事では、米国細胞生物学会が手がける「Women in Cell Biology」という活動の一環で作成されたリスト(http://ascb.org/wicb-committee/)が紹介されています。他にも、米国National Science Foundationの支援を受けて設立された合成生物学分野の活動が提供する女性招待講演者候補のリスト(http://www.synberc.org/diversity/speaker-suggesions)や、さまざまな研究分野での“優秀な女性研究者”を集めたAcademiaNet(http://www.academia-net.org)およびRaise Project(http://www.raiseproject.org)というのも紹介されています。さらに、招待を受けた女性研究者のとるべき行動として、まず可能なかぎり受諾するよう努め、どうしてもそれがかなわない時には代わりの女性研究者を推薦するように、と書かれています。

 

本会の状況に目を向けてみます。女性会員の割合は22%ほどであり、研究領域や地域(支部)の間で大きな違いはありません。その一方、年齢が低いほど女性比率が高くなる傾向が顕著であり、正規ポジションに就く女性が少ないことを反映しているのかもしれません。今月には本会の執行部構成が新しくなりますが、女性の割合は代議員で10%(全171名)・理事で13%(全24名)です。多分野に渡る54の学会が加盟する「男女共同参画学協会連絡会」という組織があります。本会はこれから1年間にわたりその組織の幹事学会を務めることになっており、男女共同参画を含めた“多様性を受け入れるための活動”が強化されそうです。7月のScience誌で女性研究者の割合を増大させるための“数値目標”の有効性について内閣府の「総合科学技術・イノベーション会議」において検証がなされると紹介されており(7月10日号349:127)、性の多様性だけでもその実現のための方策とあるべき姿が見えてこないのが現実です。

 

男女共同参画は男と女が同じ役割を担うことを必ずしも意味しておらず、男女で一致する部分と違う部分を理解したうえで、それぞれの科学への携わり方を考えるべきではないでしょうか。おりしも、同性パートナーや夫婦別姓が話題となっています。私は、これまでのように“男女比の数値”だけでなく、もっといろんな観点から性の多様性をとらえることが、どちらの集団にとっても好ましい男女共同参画活動の有り様を導くことにつながると思います。

 

私の会長としての任期は今月で満了するので「会長便り」は今号で終了します。2年間お読みくださりありがとうございました。

 

2015年11月

中西義信