会長あいさつ
会長 一條 秀憲
(東京大学大学院薬学系研究科)
本日の総会承認をもって日本生化学会会長を務めさせて頂くことになった東京大学大学院薬学系研究科の一條秀憲と申します。
その昔、生化学は生命科学に携わる人たちの中でも特にデキル人たちが猛烈にしのぎを削って切磋琢磨する学問の代表格でした。もちろん今も、表だった競争の激しさこそ以前ほどではないものの、生命を知り、守り、育む上で、なくてはならない最も基礎的で、同時に最先端の学問であることに変わりはありません。
一方で、生命科学の発展に伴う多様性の増大からか、アイデンティティーとして生化学者を名乗る人はやや減少気味ですが、重要なのは生化学者の数ではなく、実際に生化学を熟知し、使いこなせる人の数です。私自身、未だに決して生化学を会得したとは言えませんが、生化学の駆使なくして真に生命を科学することはできないという強い思いがあります。
近年、アウトプットとしての実用化や成果応用が強く求められることもあって、ついつい体の中の分子メカニズムをすっ飛ばして分かりやすいインプットとアウトプットの関係性だけを追求し、またいつしかそれだけで生命のメカニズムを知った気になってしまう傾向があるように思います。
会長としての2年間、生命科学を本格的に目指す若い研究者の方々に、是非とも「分子メカニズムの面白さ」とそれを紐解く「生化学の重要性」、そしてその「最大かつ最先端コミュニティである日本生化学会の素晴らしさ」をお伝えすることを最も重要なミッションとして本学会の発展に寄与したいと思っています。
本学会の特色については、改めて会長だより等を通じて折に触れてご紹介したいと思いますが、大会の特徴は、なんといっても若い研究者の口頭発表機会がたいへん多いことであり、IUBMB、FAOBMBなどの国際会議や日本分子生物学会などの関連学会との合同大会も積極的に開催しています。また日本生化学会は北海道から九州まで全国8つの支部から構成されており、各支部選出の理事によって地域の課題や意見が本部に直接反映される仕組みになっています。さらに「生化学会奨励賞」、「柿内三郎記念賞」、「JBSバイオフロンティアシンポジウム」などの様々な顕彰制度や助成制度に加え、「早石修記念海外留学助成」による留学支援制度もたいへん充実しています。そして伝統ある学会誌として、総説和文誌「生化学」ならびに原著英文誌「Journal of Biochemistry」をオンライン発行することで、和文誌ならではの密なコミュニティ形成と国際誌ならではのタイムリーで幅広い情報発信を可能にしています。
日本生化学会は、2025年には設立100周年を迎えます。日本の生命科学を支え続け、そしてこれからも最先端の国際的研究者が集う場として、本学会のさらなる進化は世界の生命科学の発展にも必要不可欠です。
学会財政や女性研究者比率など、古くて常に新しい課題も山積していますが、会員の皆様の力をお借りしながら諸々の問題の解決に当たりたいと思います。微力ながら、尊敬すべき多くの先達によって作り上げられてきた本学会の大いなる発展を期して、全力を尽くします。どうぞご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します。
2021年11月17日
日本生化学会会長
一條 秀憲