若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

私の研究~時には感動を立教大学理学部生命理学科 山田康之

h21_5[1]私は1993年4月、学部4年の卒業研究の時に東工大資源研の吉田賢右先生の研究室に配属になり、大学院生、学振PDとして計10年間、吉田研究室で研究を続けた。PD終了後、当時東大生産研にいた、研究室の先輩でもある野地博行さん(現阪大産研)の部屋で1年間PDとしてお世話になった。その後、今の所属である立教大学理学部に移り独立し、今に至っている。現在に至る研究は4年生から修士課程に上がるときに始めたもので、かれこれ14,5年は続けていることになる。私の研究のような、割と地味な研究が今回評価して頂けたことの一つの理由としては、このようにコツコツと続けてきたということもあるのかなと思っている(ドカンと一発ストレートではなく、ジャブの積み重ねという感じか?)。人事の流動性、いろいろな環境での経験などの重要性は認識しているし、新しいことに取り組んでいくのももちろん大切だが、しつこく同じことを続けるというのもアリじゃないかと思っている。(研究者なら誰でもそうかもしれないが)自分が今やっていることについては日本一、いや世界一詳しいと自信を持っていえる。

 私自身の研究の中では2003年に発表(Kato-Yamada, Y., and Yoshida, M. (2003) J. Biol. Chem. 278, 36013)した「ATP合成酵素のεサブユニットへのATP結合の発見」がとても印象に残っている。分子量50万程度の巨大な膜タンパク質であるATP合成酵素の活性調節を担っている、εサブユニットという分子量わずか14,000程度の小さなサブユニットにATPが結合する事を見つけたというものである。

 この発見はささやかなものかもしれないが、私からすれば大きな感動であった。ATPの結合を見るためにHPLCのオートサンプラを仕掛けて帰って、翌朝には大慌てでチャートをざっと見て、これは間違いなくATPが付いているという確信を得た。そのときの感覚は大げさかもしれないが、こんな感覚が10年に一度くらいでも味わえたらうれしいなあというようなものだった。

 εサブユニットはATP濃度などに依存したATP合成酵素の活性調節に関与していることがわかっていたので、当然このATP結合が活性調節の直接の引き金になっているというストーリーを考え、それを確かめる実験を行った。いつもなら昼食の時にペラペラとしゃべっていたのだが、あまりに突拍子ない話だったので、ある程度様子がわかるまで(ちょうど1ヶ月後くらいにセミナーの発表にあたっていたのでそれまで)は吉田先生には黙っておこうと、(今にして思えば失礼な話であるが)内緒で実験を行った。果たして、どうやらεサブユニットへのATP結合は、活性調節におけるεサブユニットの構造変化の直接の引き金ではないということがわかった。この結果は非常に残念で、私は一気にトーンダウン。セミナーでも淡々と「こんな現象を見つけたけれど、どうやら活性調節とは関係の無いもののようなのであまり面白くなさそうだ」といった報告をした。しかし、吉田先生は「ATP結合に非常に高い特異性があるからきっと何か意味があるはずだ」といい、引き続き調べてみるのがいいのではないかと助言をしてくれた。結局さらに3年ぐらいかけて、活性状態が変化した後にεサブユニットへのATP結合が起こり、それが活性調節に関係しているということがわかった。私が一人でやっていたらここまでやる前に放り出してしまっていたかもしれない。センスの違ういろいろな人の意見を聞きながら研究を進めていくというのは大切なことだと改めて思う。

 そんなこんなで、私の感動体験からもかれこれ5,6年たってしまったので、10年に1度それを味わうには、そろそろ種を蒔いて、芽を見つけたいと思っている。狙って得られるものかはわからないが、これからも研究を続けていき、またあんな感覚を味わってみたいと思っている。

 吉田先生には、すばらしい研究環境を与えていただき、本当に自由に研究をすることができ、大変感謝している。また、時には適当な(もちろんいい加減という意味ではなく、properという意味で私の好きな言い回し)助言を与えてくれたこともとてもありがたく、私自身もそんな風に研究室を運営していきたいと思っている。

 

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