若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

自分なりの研究の色名古屋市立大学大学院薬学研究科
矢木 宏和

このたび、日本生化学会奨励賞を頂きました。本賞をいただくにあたり、学生の頃からの指導教員であり現所属の上司でもある加藤晃一教授、一緒に研究をおこなってくれた学生、また有益なご助言をいただきました共同研究者の皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。

現在、私は、「生物はどうしてこのような複雑な糖鎖というものを利用しているのか?」「糖鎖の生合成はどこまで緻密に制御されているのか?」と疑問に対して多面的な手法で研究を行っている。ただ、研究を始めた当初からこうしたことを考えていたわけではなく、これまでの研究人生の様々な経験の中から出てきた研究のモチベーションである。

学部4年生で研究室に配属されたばかりの頃、様々な疾患患者の血清IgGの糖鎖を分析することを行なっていた。当時の私は、病気に応じた糖鎖プロファイルが得られたことが嬉しく、すごいでしょうと言わんばかりに教授室に乗り込んだが、教授からの一言は「君の研究は面白くないね」と言われ、「そもそも研究テーマは先生が選んだものなのに!」とショックを受けたことを鮮明に覚えている。ただ、前後の会話の文脈や後々の指導を鑑みると、単に言われたことを行って糖鎖プロファイルに違いを示すことが研究ではなく、「糖鎖プロファイルが異なる現象が起こるメカニズムがわかった」、「分析法を工夫することで、見えなかったものが見えるようになった」など、最初に与えられたテーマをどのように展開するかが研究である、という指導の一環なのだと現在では理解している。確かに当時の私は、既存の分析法でプロフィルの違いを見ることが研究の目的となっており、その背後にあるメカニズムや分析法の改善などには全く目を向けていなかった。こうした教授の指導がなければ、私はただ糖鎖を分析していることに甘んじていたかと思う。同じ研究テーマであったとしても、研究を展開する手法・方針は様々であり、各々研究者が自分の考え方をもとに推進するため、ゴールにたどり着く道筋は1つではなく、またゴールも1つとは限らない。私は、こうした研究の道筋が、それぞれの研究者の色(オリジナリティー)ではないかと考えている。

早いもので、17年研究に携わっているが、その多くは、現所属の研究室にて、学生、スタッフとして研究を推進してきた。幸運なことに、Kay-Hooi Khoo博士(台湾中央研究院)、神奈木玲児博士(愛知県がんセンター)、池中一裕教授(生理学研究所)、Robert K. Yu教授(Georgia Regents University)の主催する研究室でも各々数ヶ月から1年研究を進めることができた。こうした機会の中で、生化学だけでなく、分析化学、構造生物学、細胞生物学、神経科学など色々な手法を学ぶことに恵まれ、また色々な研究者の考え方に触れることができた。このような他分野にわたる研究の経験を活かしつつ、今後はより一層、自分なりの研究の“色”を出していける研究者になっていきたい。

 

矢木 宏和  氏  略歴
2003年 名古屋市立大学 薬学部 卒業
2005年 名古屋市立大学大学院 薬学研究科 博士前期課程 修了
2008年 名古屋市立大学大学院 薬学研究科 博士後期課程 修了
2008年 名古屋市立大学大学院 薬学研究科 日本学術振興会特別研究員
2009年 自然科学研究機構 生理学研究所 日本学術振興会特別研究員
2009年 名古屋市立大学大学院 薬学研究科 助教
2013年 名古屋市立大学大学院 薬学研究科 講師