若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

変わらない勇気と変わる勇気東京農工大学大学院工学研究院
浅野 竜太郎

photo-h28-2このような大変栄誉ある賞を頂きましたこと、まずこの場を借りて、ご指導頂きました先生方、また献身的に実験を行って頂いた補佐員ならびに学生の皆様に心より御礼申し上げます。流動的なアカデミックに於いて、卒業研究から本受賞に至るまで一貫したテーマで研究を続けることができましたこと、改めて直接ご指導頂きました熊谷泉、工藤俊雄、両東北大学名誉教授に厚く御礼申し上げます。

 さて、長きに渡って医用を目指した組換え抗体の研究に従事していますが、岐路は思いの外、早く訪れていました。先輩が卒業し、いよいよ自身で考え研究を進めることとなった修士1年の頃、なかなか期待する結果は得られず、テーマを変えるかとの話も聞こえるようになっていました。工学部に於いて、新しい抗体医薬を志向した研究というのは、研究室の中でも異質でしたが、元々生物系を志望していたこともあり、またテーマに魅力も愛着も感じていた為、何とかもう少しだけと頼みつつ実験を続けましたが、結果はやはり芳しくありませんでした。真剣に今後のことを話そうと声を掛けられ、せめて今夜までと懇願したその日の夕方、ようやくポジティブな結果が出て、このまま続けることのお許しを頂きました。実は後日、発現ベクターの構成の間違いに気付いたのですが、早く気付いて先に修正に着手していたら、結果が間に合わずテーマが変わっていたかもしれないと考えると、絶妙のタイミングであり、きっと何か不思議な力が働いたのだと思っています。次の岐路は、助手として採用され1年が過ぎた頃、それまで低分子量型の組換え抗体と大腸菌発現系のみを用いて研究を進めていたのですが、同じく進捗が滞り、他の事情も相まったある日、突然高分子量型、かつ動物細胞発現系の利用を指導されました。発現宿主としての使用経験はありませんでしたが、何とか状況を打破したいという気持ちもあり、思い切って着手しました。諸先生方の協力も得られ、結果研究の幅が広がると共に、現在でも研究の中心として用いている素性の良い抗体クローンにも巡り合いました。研究者は時に頑固で、試薬や手法を変えたがらないことが多く、もちろんそれが功を奏することもありますが、変わらない勇気に加えて、時に変わる勇気も必要かなと思います。私事ですが昨夏から研究の場が変わりました。抗体を扱った研究にはこだわりつつ新しいことにも柔軟に携わっていきたいと思っています。

浅野 竜太郎 氏 略歴
平成11年03月 東北大学工学部生物化学工学科 卒業
平成11年04月 東北大学大学院工学研究科生物工学専攻博士課程前期課程 入学
平成12年03月  同 中途退学
平成12年04月 東北大学加齢医学研究所附属医用細胞資源センター 助手
平成14年12月 東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻 助手
平成18年12月 東北大学大学院工学研究科 博士(工学) 取得
平成19年 4月  東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻 助教
平成23年 1月  同 准教授
平成27年 9月  東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門 准教授