会長あいさつ

president

平成26〜27年度 日本生化学会会長
中西 義信

 まず自己紹介から始めます。私は大分県に生まれ,高校卒業後に大学進学のために九州を離れてからは主に東京で過ごし,現在は石川県に住んで金沢大学(薬学系)に勤めています。取り組んでいる研究は自然免疫の仕組みと意義に関するもので,教育面では生化学関連科目の授業と実習を担当しています。私は大学院生の時に本学会に入会し,それ以来ずっと会員として研究活動を続けています。

 会長になって最初の仕事として,会員のみなさんに学会運営の仕組みを説明します。日本生化学会は,2012年8月に内閣府より公益社団法人の認可を受け,それまでの特例民法法人から法人組織が変わりました。私が会長を務める平成26〜27年度の期間は,公益社団法人になってから二期目にあたります。学会運営の仕組みが以前と大きく変わったわけではありませんが,会員への周知がまだ十分になされていないように感じており,その概要をご説明します。

 生化学会で扱うすべての事案は,約9000名の会員を代表する183名(平成26〜27年度)の代議員で構成される「総会」の場で決定されます。総会に至るまでの各事項の検討は,代議員の互選で選ばれた24名の理事から成る「理事会」で行われます。理事には,学会運営全体の方向性を考える6名の常務理事,2名の副会長,および会長が含まれます。そして,すべての学会業務の健全性が3名の監事により監査されます。生化学会の特徴のひとつとして,活発な活動を行う支部組織を持つことが挙げられます。公益社団法人に変わってからは理事が支部長を務めることとなり,8つの支部と中央との連携がさらに密になりました。また,学会内には理事を委員長とする4つの「委員会」が設けられており,各種授賞,倫理問題,男女共同参画,および情報発信に関する諸事項について検討して理事会に提案します。

 続いて,生化学会が会員のみなさんに何を提供できるかを考えます。年会費を支払っているみなさんは,その額に見合うものを得たいと思っているはずです。学会はそれに応えることが求められます。情報通信技術の進歩は現在社会にさまざまな影響を及ぼしており,学会活動を含めた研究と教育の行いもその例外ではありません。私が大学院生であった頃には,学術雑誌は冊子体(船便で1ヶ月遅れで届く)で読み,論文投稿は印刷した原稿の郵送(こちらは航空便を使うとはいえ到着に一週間位を要する)で行い,そして学会発表といえばポジフィルムを幻灯機で投射し“次のスライドお願いします”と会場の映写係に伝えるタイミングを練習したものでした。当時はまた,論文で名前を見ることしかできなかった高名な科学者の‘顔を見に行く’ことも学術集会に参加する大きな目的のひとつでした。今ではある研究者を知りたいと思えば,顔どころか講演まで動画でいつでも見ることができます。インターネット環境のない時代では,会員と学会とのつながりは年次集会を除くと会報の記事だけでした。現在は研究成果の公表と評価のやり方も急速に様変わりしつつあり(Nature誌10月17日号,Science誌10月4日号),それに伴って会員が学会に期待することも以前とは異なってくるでしょうし,学会運営においても会員とのつながりのありようを変えてゆく必要があります。

 生化学誌(http://www.jbsoc.or.jp/backnumber)とJournal of Biochemistry誌(JB)(http://jb.oxfordjournals.org/)の閲覧は会員に与えられる最大の特典であり,これらを充実させる努力を続けることが求められます。それぞれは,「生化学誌企画委員会」と「JB編集委員会」がその仕事にあたっています。生化学誌は毎月刊行されて会員に送付されていますが,2014年にその形態が変わります。刊行頻度は隔月となり,ウェブサイトから電子版をご覧いただくようになります(希望者には印刷版が有料頒布されます)。この機会に,生化学誌の内容をより充実させたいと思っています。Oxford University Pressと協力して発行しているJBにおいては,掲載論文の引用頻度を表すインパクトファクター値は過去5年間上昇を続けています。2014年には新しい編集委員長を迎えてさらなる飛躍をめざすので,会員からの投稿が増えることを期待しています。

 みなさんの研究成果発表の場である大会も,会員の特典が実感できるように充実させることが必要です。各学問領域の垣根はますます低く薄くなっているので,生化学会員の発表の場は他の学会にも見つけることができるでしょう。しかし,複数の学会に所属して学術集会に参加すると大きな出費を伴います。これまでに幾度か,生化学会大会は分子生物学会年会と合同で開催されてきました。しかし,それを常態化するには至っておらず,年ごとに合同開催となるかどうかわからない状況が続いています。Journal of Biological Chemistry誌などを発行するAmerican Society for Biochemistry and Molecular Biology(ASBMB)の年次集会はExperimental Biologyと称され,ASBMBを含む6つの学会(他に,解剖学,生理学,病理学,栄養学,及び薬理学関連の学会)が同時期に同じ場所で5日間にわたる日程で開催されています。参加費は少々高めですが(早期登録で正会員375米ドル),どの学会のイベントにも出席できるようになっています。私は以前より,生化学会大会もこのような形態をとって,分子生物学会だけでなく細胞生物学会や発生生物学会などの年次集会と合同で開催できればいいと思ってきました。参加費や学術プログラム構成のあり方を調整するのはたいへんそうですが,そのような検討も今後2年間の学会運営における検討課題のひとつです。

 ASBMBの会報である月刊誌のASBMB Todayは,多岐にわたる有益な記事が掲載されて読みごたえのある冊子になっています。例えば,学会発表のための映写図やポスターの作り方,ポスター発表での聴衆としての態度,研究費申請のやり方と採択のための工夫,大学院指導教員の選び方,研究室で遭遇する問題の解決法,大学教員や企業研究者になるための就職活動の方法など,研究・教育とキャリアパスに関するさまざまな情報が得られます。また,会長の言葉や政府とNational Institute of Healthの動きを知るための記事も毎号に掲載されています。生化学誌は研究成果の総説を主とするためこのような構成ではないのですが,学会ウェブサイト(http://www.jbsoc.or.jp/)をもっと活用して,会員のために有用な情報を提供してゆきたいと考えています。

 みなさんが会員であることの利点を感じることなしに,日本生化学会の存在意義が確かなものであり続けることはできません。そのためには,学会運営に携わる者が会員の思いを的確に把握する必要があります。会員のみなさんには,2013年より設けたフェイスブックページなどを通じて,学会への要望をぜひ届けていただきたいと思います。最後に,新しく代議員となられた方々にお願いをいたします。先に述べたように,本学会での最高決議機関は代議員で構成される「総会」です。公益社団法人となって,総会への代議員の出席率を高く保つことが求められます。代議員のみなさんには,総会開催の案内が届きましたら可能な限り出席に努めてくださるようお願いします。

それでは,これから2年間の生化学会の活動にどうかご期待下さい。

2013年11月