会長だより

  • 会長便り第5号:日本生化学会 会長・副会長座談会〜その3〜

    • 会長便り第5号:日本生化学会 会長・副会長座談会〜その3〜

      2023年10月16日

      会長便り第5号として、両副会長との座談会〜その3〜をお送りします。
      なお、この座談会記録の内容は、各人の発言の意図が会員の皆様に正確に伝わるよう、録音の文字起こしの後に編集を加えた上でお届けするものです。

      一條秀憲


      日本生化学会 会長・副会長座談会

      日時:2022 年 2 月 18 日(金)午後、追加として2023 年 9 月 4 日(金)午後 
      場所:東京大学 薬学系総合研究棟 1F 186-2 一條教授室
      出席者:会長/一條秀憲、 副会長/水島昇、横溝岳彦、事務局/渡辺恵子

       

      〜その3〜

      ◆他学会との関係

      【会長】 次回の分生との合同大会(2026年12月開催予定、生化学会会頭:胡桃坂仁志氏、分子生物学会年会長:水島昇氏)は、10年ぶりということになるのですね。確か2017年に開催したConBio2017が最後でしょうか。そもそも、基礎生命科学を代表するような分生と生化という大きな学会が2つあること自体はどうなんでしょうか。

      【水島副会長】 やっぱり世界的に見て、分子生物学会と生化学会を別々に持っているのは本当に日本ぐらいですね。日本は別々に持つことでどういうメリットがあるかということがはっきりすればいいのだけども。生化も分生も今の学会員にとってメリットがあるようにするのが一番いいと思うんですよね。理事会がこうあるべきだと決めるよりかは。

      【横溝副会長】 昔、水島さんがアンケートをされましたよね。

      【水島副会長】 大会の時にはアンケートをするんですけど、大会の時のアンケートは「その大会はよかった」という結論になってしまう。それぞれの学会が単独でやれば単独でやって良かったねと、合同でやったら合同ですごく良かったねということになってしまうので、一度、大会とは切り離してこういうことを会員がどう考えているのかを聞く機会があるといいのかなと思います。

      【横溝副会長】 そういうアンケートをやっていなかったですか。大会だけを一緒にやるとか、学会そのものを一緒にする方向で頑張ろうとか。何かあった記憶がありますが。

      【水島副会長】 ずっと昔に田中啓二先生が生化の将来計画委員会をやった時、20年以上前。ただそれは、全会員にアンケートをしたのではなくて若手PIぐらいにアンケートを採った。

      【会長】 そう考えると、生化学会会員にも生化学会本体から聞いてみるというのはあるのですかね。

      【横溝副会長】 それはありじゃないですか、全員に。いくつかの選択肢を上げた上で。

      【会長】 何を聞くかだね。

      【横溝副会長】 合同大会をどうするかとか、学会そのものの統合の可能性を探ったほうがいいかとか、でしょうか。

      【水島副会長】 この問題は我々がどうこうするよりか、次の世代がどう考えるかのほうがもっと大事ですね。

      【会長】 それは確かにそう、今後の分生との懇談会等でぜひそれも言ってください。分生とは、合同大会に限らず、いろんな活動を協力し合って一緒にやった方がシナジーが得られると思うので、もっともっと一緒に活動できるといい。お互いすごく大きな学会で、オーバーラップしている部分も多々あるので。別々にやることの無駄もあるし。

      【横溝副会長】 デメリットはあまりないと思います。得られるメリットはお互いにすごくあると思います。特に僕らみたいに脂質とか生化学寄りの研究をしている人、特に若手が分生に出るメリットはものすごく大きいですね。一細胞解析とかの分子生物学の新しいテクニックを学べる。逆に分生でタンパク質と核酸の仕事しかしていない若手が、生化学会に来て糖とか脂のことを勉強するというのもものすごく有益だと思います。お互いに持っていないところを補う意味で大きいと思います。しかも脂質や糖は世界でトップレベルです。もったいないですよね。

      【水島副会長】 ほとんどの国は先に生化学会があって、それがBMBに名前を変えているようです。世界各国のまねをしたほうがいいというわけではないのですけども、日本が別々にやっている理由がもしあるのだったら、それが何かを少しでも次世代に言ったほうがいいのではないかなと思うのですけど。

      【会長】  ちょっと論点を変えて。会員の重複が研究内容の類似性と比べると必ずしも大きくない。驚きなんだけど、会員の重複率は20%ぐらいですかね。その理由としては、所属はどちらか1つで十分という考えもあるのだけど、会費の過重負担が一因となっている可能性もある。そこはどうなんですかね。

      【水島副会長】 私も、内容が似ているから、あえてお金を余計に払ってまでして両方にはいる必要性を感じていないというのが大きい理由かと分析してます。PIや上層部の重複率はもっと大きいと思います。

       

      ◆生化学会が目指すべき道、社会との接点

      【会長】 ここからは、より一般的なテーマというか、「生化学会が目指すべき道」とか「社会との接点」とか、「これからの生命科学」、その他、何でも。これは順不同で自由にお願いします。

      【横溝副会長】 サイエンスエデュケーションかなと、特にこのコロナで思いましたけどね。

      【水島副会長】 エデュケーションの対象は?

      【横溝副会長】 一般の人を対象にしたサイエンスエデュケーションが重要かなと思います。特にこのコロナで思い知りました。アンチワクチン、コロナ陰謀説などがまかり通ってしまっています。社会全体を対象にした活動が必要かと思います。特にマスコミの人たちのサイエンスの感覚のなさ、そういうものを何とかしないといけないと感じました。要するに多くの人はマスコミの報道に、マスコミというよりもSNSなんですけど、かなり流されている。SNSで、発言力のある人が意図的に書いているかもしれないけど、非常に非科学的なことを強い言葉で流していて、それに騙されている人たちがすごくたくさんいる。そういう社会に対して何か科学者がもう少しきちんと発言していくことは必要だと思います。

      【水島副会長】 SNSはコントロールが不可能ですね。マスコミと研究者サイドがもっと連携を取ったほうがいいのではないでしょうか。

      【会長】 生化学会がどうやって関わるかというところですね。

      【横溝副会長】 もちろん市民公開講座とか学会なりにやっていますけど。そういうことを継続する必要があるでしょうし、会員を増やすということも必要かもしれないけれど、やはり若い、高校生とかそういう人たちへの啓蒙をもう少しやったほうがいいかなと思っています。出前授業なんか、先生方もしているかもしれないけど、中高生ってすごく吸収力が高くて、しかもまじめに聞くんですね。あの子たちに早い段階からアーリーエクスポージャー、啓蒙活動ができたらいいなと、最近特に思います。

      【会長】 ワクチンとかに関して、生化学会としての発信というか意見表出はなかなか難しいとは思うけれど、確かにアーリーエクスポージャーだったり、一般社会の方たちのサイエンスエデュケーション、底上げみたいなことはできそうですね。より具体的にはどんなやり方があるのでしょう。

      【水島副会長】 テレビとか、実はいい番組がすごくたくさんあって、「サイエンスZERO」とか、織田裕二がやっているBSプレミアムの「ヒューマニエンス」とか。

      【会長】 あれはよく見ています。

      【水島副会長】 あ、そうですか。

      【会長】 織田裕二が「私はタバコを吸っていますが、大丈夫ですか?」みたいな(笑)。

      【水島副会長】 僕は 「サイエンスZERO」が結構好きでいろいろ見ているのですけど、よくできた番組で、我々が努力するよりもああいうのをもっと見てくれるといいかな。あんないい番組がたくさんあるのに、その割にサイエンスリテラシーがそんな高まらないというのは何でなんでしょうかね。NHKも頑張っていると思うのですけど。

      【横溝副会長】 NHKは頑張っていると思いますね。

      【横溝副会長】 でも、今の若い人たちは本をあまり買わないし、テレビも見ないんですよ。みんなSNSですから。

      【水島副会長】 学研の『科学』がなくなったのが、あれが結構痛いんじゃないか。あれがなくなっちゃったから。『科学』と『学習』って知っています?

      【横溝副会長】 配達日が待ちきれないので、家まで毎回配達してくれるおばさんの家まで受け取りに行っていました。

      【会長】 外で遊ぶのが好きだった私には、そんなに待ち遠しかったということはなかったかな(笑)。

      【水島副会長】 毎月来るんです。あれが来ると親も勉強するからとてもよかった。

      【横溝副会長】 あれは良かったですね。僕らのジェネレーションの教授と話すとよく『科学』の話が出てくるから、かなりの確率で読んでいたと思います。

      【水島副会長】 学会よりは枠が大きいけど、国民による基礎科学に対する理解というのはすごく大事ですね。応援してもらう点でも。結局文科省と財務省の話になっても、要は社会保障費を減らしてでもサイエンスにお金をもっと回したほうがいいと国民が思わない限り、この予算は変えられないというんですね。今、日本の歳出が110兆円ちょっとぐらいで、社会保障費が約35兆円、教育・研究が約5兆円なんですよね。防衛費は今まで5兆円ぐらいだったのが今年は急に7兆円近くなった。社会保障費の35兆円を減らしてでも研究や教育に回したほうがいいと国民が言ってくれるほど現状は甘くないでしょうね。

      【横溝副会長】 それは言わないでしょうね。選挙に行く人たちは高齢の人が多いから、社会保障費を削れとはなかなか言えない。

      【会長】 そのバランスというか、35兆円対5兆円という割合というのはアメリカとかヨーロッパとかはどうなんですかね。

      【水島副会長】 額で言ったら、日本の教育に対するお金がめちゃくちゃ少ないというのはよく聞かれる。OECD加盟国の中でも本当に最低水準。他の国が研究開発費を増やしているところ、日本は全然増えていない。応用的なところだけではなくて基礎科学や高等教育ももうちょっと応援してくれるとよいのだけれども。

      【会長】 そうですよね。国民のマジョリティにその気持ちがあると、国の予算として反映される。

      【水島副会長】 それと、経済界、財界は役に立たないと研究の意味がないと思っている人が多いと思いますが、一般国民はそこまで思っていないと思うのです、また最初に戻ってしまうけど。天文学とか考古学とかに興味を持っている人がとてもいるじゃないですか。科学博物館のクラウドファンディングに大きなお金が集まっているのを見ても。役に立たない科学がそこまでダメとは、国民は思っていないのではないかと思うので、その辺をもう少し理解してもらえるといいかなと思う。

      【会長】 ノーベル賞はやっぱり効果があるはずなんだけど。ただノーベル賞は、どうしても応用面がある程度認められないと受賞対象にならない?

      【横溝副会長】 賞によるのではないですか、物理学賞なんて、必ずしもそうではない。

      【会長】 オートファジーだって、将来きっと役に立つだろうということだったかと。

      【水島副会長】 それは勘違いかも(笑)。

      【横溝副会長】 学会レベルでできる可能性は何かと最近考えたときに、やはり医師会みたいに政治家を生化学会から送り込むことはできないかなあということですね。サイエンスの重要性がわかっている人を、少し政府を動かせるような立場に持っていかないといけないのかなと思ったりします。決して利益誘導ではなくて、政治を動かす人の中に科学をバックグラウンドとした人がいてほしい。

      【会長】 なるほど。だけど、そんな政治家いるかな。そういう政治家をつくらないといけないということね。

      【横溝副会長】 政治家に生化学を理解しろというのは難しいので、逆に生化学会の会員の中でそういうことに人生を懸けてもいいと思えるような人がいれば、それを学会挙げて応援することができないでしょうか。医師会は明らかに医師会挙げて応援できるんですよね、票を集めることができる。自民党にいるお医者さんの議員さんの多くは、どちらかというと開業の先生たちのメリットのために動いているのです。だから、医療報酬を下げないようにとか、そちら方向なので、必ずしもサイエンスというか、医学ではないんですよ。

      【水島副会長】 基礎研究の人で。

      【会長】 生命科学系の人はいますか? 工学系とかはいそうだけども。

      【横溝副会長】 選挙のたびに見てはいるけど、気がついたことはないですね。

      【会長】 そういう人たちが何をやってくれますかね。

      【水島副会長】 仮にそういう人がいても、さっきの5兆円を増やすというのはかなり難しい。その中のバランスを変えることはできても。

      【会長】 現実的には、単純に動いてもらうためにはこちらがサポートするなり、応援するなりして、初めてそのリウォードとして動いてくれるのかもしれないけど、学会活動としてはあまりやるべきことじゃないですよね。特定の代議士とかいったら、やっぱりなかなかうまくいかない。

      【横溝副会長】 私が思っていたのは、今いる代議士に働きかけるのではなくて、生化学会の中でもしそういう気持ちを持っている人がいたら、学会としてサポートして国会へ送り込む。夢かもしれない、妄想かもしれませんけど。繰り返しになりますが、言いたいのは利益誘導ではなくて、政治を動かす人の中に科学をバックグラウンドとした人がいてほしいということなんですよ。

      【会長】 なるほど。生化学会が目指すべきところとしては確かにそういう道はありますね。

       

      ◆これからの生命科学

      【会長】 「これからの生命科学」についてはいかがですか?

      【水島副会長】 いろいろな分野がだんだんなくなっていくでしょう。縦割りだった学問分野がどんどん融合していく。生化学はどちらかというと学問分野ではないので、そういうときになっても生化学会としての重要性はたぶん変わらずあるだろうなと思う。また、アプローチがデータドリブンになったとしても、生化学の重要性は変わらないかなという気がする。あるいは、分子生物学も生化学も学問分野であると言えるかも知れません。「生化学」という教科書があるぐらいだから。それでも、いろいろなフィールドに生化学的な考え方はあるわけだから、生化学って決して閉じた学問ではないですね。

      【会長】 全然閉じていないですよね、むしろどんどん広がっている感じがするし。

      【水島副会長】 我々の世代の多くは仮説ドリブンの研究をずっとやってきて、これからもそういうのは残るけれども、やはりデータドリブンの要素がもっと増えていきますね。考えられることからスタートするのではなくて。

      【会長】 メカニズムがブラックボックスにどんどんなっていくんですね。

      【水島副会長】 データが何か教えてくれても、次は今までどおりのことをやらないといけないのかなとは思うんです。

      【横溝副会長】 まさにそれを一條先生が「会長だより」の最初で書かれていて、データドリブンで仮説が出たときにそれを検証していく手段の1つが生化学であって、その正確な分子の取り扱いが最後に必要になってくるという意味では生化学会の未来は明るいというか、ずっと必要とされる学問分野だと思います。

      【会長】 やはり必要なのは間違いがないことなのです。でも、それがもっと評価されなければいけないですよね。単純には、データドリブンでアウトプットに直接つながるインプットのほうにお金が流れていくし、結局こうすれば病気が治るみたいな、途中がわからなくても治ればいいみたいになってしまうところがあるけど、本当はなぜ治るのかが直感的にもわかることが大事だしサイエンスとして面白い。それが理解できることによって思いもよらない発想に基づく医療や薬もできることになるんですけどね。

      【水島副会長】 逆に仮説ドリブンのところにこだわりすぎていると、ちょっと時代から乗り遅れているところもあるから、生化学としてもデータドリブンのところを十分取り入れてやっていくということになるんですね。別に生化学はそれと相性が悪いわけでは全然ないですしね。タンパク質も脂質もマスでデータがたくさん取れるわけだし。

      【横溝副会長】 日本の生化学が素晴らしいなといつも思うのは、再現性を非常に重視する習慣が歴史的に受け継がれていることですね。僕は受容体の専門でいろいろな受容体の追試実験をやりますけど、アメリカの追試実験はうまくいくことのほうが少ないけど、日本から出た論文は間違いなく追試ができます。我々の分野ではね。逆に海外の生化学とか分子生物学はうまくいくことの方が少ない。

      【会長】 生化学では昔から定量性をすごく大事にしていますね。

      【水島副会長】 やはり融合的な研究がどんどん多くなっていくなかで、領域を絞ったシャープな研究会だけに行くのではなくて、生化学会ぐらい大きなところに来てほしい。永田和宏先生がよく言うのは、自分の研究だけじゃなくて、ほかの人の研究も面白いと思えるようになるのが大事だって。自分のフィールドだけでなくて、違うフィールドも面白いと思えるようになるためにも、生化学会ぐらい大きな規模の学会が大事なんだろう、と。生化学会は、小さな研究会にはない、そういう役割を持ち続けないといけないのだろうなと思うのですけど。これから文理融合はどうなりますかね。かなり言われていますが、生化学会にもそういう人文系の人が入ってきてなんていうことがあるんですかね。

      【横溝副会長】 物を書く力って要求されますよね。グラントを取るにしたって、論文を書くにしたって。

      【水島副会長】 例えば情報とか、脳科学とか情報科学はかなり人文系の人も入ってきたり。

      【横溝副会長】 研究者として入ってきているということね。

      【水島副会長】 私はJSTの創発的研究支援事業も担当していて、あれは自然科学が対象ですが、人文系も分野として選べるようになっています。

      【会長】 水島さんがやっている創発は、研究対象がある程度絞られているのですか?

      【水島副会長】 まず、基本的には自然科学系であれば、すべてを網羅しています。それがとても良い点です。その上で、例えば、主分野としてライフサイエンス系、副分野として人文・社会系の研究分野を選んで申請できるようになっていて、結構な人が人文も選んでるんですね。

      【会長】 分野によってはぴったりくるのがあるような気がする。例えば老化研究とかも。自分でも年取って初めて感覚的にわかることってあるし。

      【水島副会長】 そうですね、脳科学もある。

      【会長】 なるほど、でかい学会であることの長所を活かすというか、生化学会もこれまでに全くなかった異分野を取り込んでより大きくなってもいいのかもしれない。

      【水島副会長】 そういうコンソーシアム系のあれになっていくかもしれないですね、学会として。

      【会長】 それは一つ生命科学という大きなソサイエティがあって、その中に生化も分生も細胞生物も情報科学もさらに文系も入っていくような感じになるのかもしれないですね。

      【水島副会長】 それとスペシャライズされた研究会みたいなのがあってという。ConBioは時代を先取りしましたね。

      【渡辺】 生科連みたいなものはダメですか。

      【会長】 それはありかもしれませんね。生科連の活動を支える経費は各学会から5万円ぐらいずつ拠出しているのですね。

      【水島副会長】 アメリカのエクスペリメンタルバイオロジーはうまくいっているので、ああいうところのノウハウを集めてくるといいかもしれない。各学会の事務局があって、かつエクスペリメンタルバイオロジーとしての事務局があるんですね、統合しているものが。

      【横溝副会長】 エクスペリメンタルバイオロジーでは、時々出てくる学会が変わったりしているのね。ファーマコロジーが大きなときもあるし、トキシコロジーが入ってきたり、毎年同じじゃないんだよね。

      【会長】 確かにファーマコロジーはあの中で頑張っていますね。

      【水島副会長】 合同年会みたいなものをオーガナイズする組織が何かあるといいですね。

      【会長】 生科連って、エクスペリメンタルバイオロジー的なものだけでしたっけ?

      【水島副会長】 あれはかなり広い範囲の生物学関係の学協会が入っていますね。あれだと、ちょっとさすがに大きすぎる。

      【会長】 アメリカのエクスペリメンタルバイオロジーみたいに、5つ6つぐらいの学会が緩くまとまっていくみたいなことをどこかで提案してもいいかもしれない。今年4月の初めには分生・生化の非公式懇談をやって、たいへん有意義な議論ができたけど、次回にこの話もしてみようかな。薬理学会とも少し話をしていて、いろいろ連携しようと言ってくれている。

      【横溝副会長】 生理学会なんかも結構大きな感じがしますけどね、教育的な活動も活発です。

      【水島副会長】 医学会に所属している学会がまとまるのは、たぶんやりやすくはあると思うのですが、それだと医学オリエンテッドになってしまう。むしろ生化学会は学部の均等割りを重んじてきたじゃないですか、医学だけじゃなくて。そういうことと反するかなという気がするので。

      【会長】 そう考えると分生が入ることは大事ですね。象徴的な意味がある。

      【水島副会長】 分生は医学会に属していないので、その参加は意義がある。エクスペリメンタルバイオロジーは全部医学関係ですね、栄養とか解剖とか。

      【横溝副会長】 そうですね。ただ、アメリカはご存知のとおり、そういう医学系の学会はPh.Dがすごく活躍しているから。そこは土壌が日本とは違う。

      【会長】 それは本当に大きな違いですよね。

      【会長】 さて、あっという間に時間が過ぎてしまって、そろそろお開きということになりました。まだまだ話し足りない気がするのですが・・・。

      【水島副会長】 学会誌とかJBとかと思ったのですけども、またの機会に。

      【会長】 あ、そうですね。わかりました。是非また機会を設けさせて頂ければ有り難いです。皆さんたいへんお忙しい中、今日は本当にありがとうございました。

       

      [了]

  • 会長便り第4号:「大会会頭に聞く」座談会 ~日本生化学会第95回名古屋大会・門松会頭、第96回福岡大会・住本会頭に聞く~

    • 会長便り第4号:「大会会頭に聞く」座談会 ~日本生化学会第95回名古屋大会・門松会頭、第96回福岡大会・住本会頭に聞く~

      2023年5月1日

      会長便り第4号として、第95回・第96回生化学会大会会頭との座談会をお送りします。
      なお、この座談会記録の内容は、各人の発言の意図が会員の皆様に正確に伝わるよう、録音の文字起こしの後に編集を加えた上でお届けするものです。

      一條秀憲


      「大会会頭に聞く」 座談会

      日時:2023年2月24日(金)午前
      出席者:会長/一條秀憲、 第95回大会会頭/門松健治、第96回大会会頭/住本英樹

       

      【一條会長】 お忙しいところ、本当にありがとうございます。まず、第95回名古屋大会を振り返ってということで、一言いただけますか。

      【門松第95回大会会頭(以下、門松会頭)】 コンセプトは、会頭がいくら言ってもそのとおり世の中が動くわけではないので、そこまで重いとは思っていないのですけど。ただ、生化学の歴史を考えると、やはり今後というか、トレンドというべきか、異分野の融合がどうしても必要だと思ったので、手をつないで、そこから汗をかいて、しずくが落ちると広がるというようなイメージでポスターを作りました。
       ただ、やはりよかったなと思うのは、一條先生に本当に感謝ですけども、対面でやろうよと言っていただいたし、僕はずっとそういうつもりでいたものですから、それに乗っかってやって、無事対面でできた。住本さんにも会えましたし、会場で懐かしい顔に会うだけでも、みんな喜んでくれたというのは本当に伝わってきて、それがすごくよかったなということですね。懇親会も会長の肝いりというか、ああいう懇親会は僕も初めてだったし、あれも好評だったと聞いています。やっぱり一條さんのあのアイデアはすごくよかったと僕も思うのですね。そういう意味でタイミング的に運がよかったということもあったし、振り返ってということで言えば、一言それです。本当に感謝しかないです。
       私自身が思ったのは、改めて学会の意義というか、ありがたさも含めてですけど、会員が思ったのではないかと思うのですね。こういう対面であることによって人的な交流というか、この場所として大会というのはすごく大事だ、と。あるいは、生化学会そのものがありがたいというふうに思っていただいた人が多かったのではないかなと思いますね。

      【一條会長】 プログラムの特徴に関してはいかがでしたか。特別講演を山本先生と森先生にということで。もう1人はベルトッツィさんでしたが、直前までヤキモキしましたね?

      【門松会頭】 彼女はなかなか捕まらなくて、鈴木匡さんにかなり頑張っていただいて、やっと取れたのですけど。もともと忙しい人なんですが、どうもメールがはじかれるみたいだったですね。最後の最後にやっと通じてよかったのですけど。

      【一條会長】 ちょうどノーベル賞の決定直後でしたっけ。ノーベル賞の噂は以前からかなり出ていたのでしたっけ。

      【門松会頭】 決まった直後ですね。いや、ノーベル賞の噂はないですね。彼女は今クリックケミストリーで取れるとしたら取れる可能性はあったわけですけど、発明者ではないわけなので。ただ、生体の中で毒性もなくクリックリアクションができるということを開発した人という意味では足跡は大きかったと思うし。第一戦場というか、主戦場が糖鎖だったので、我々はなじみやすかったのですけど。でも、いずれにしても山本先生の話も森先生の話もベルトッツィさんの話も会場にとにかくたくさんの人に来ていただいた。ベルトッツィさんは第二会場も結構入ったのではないかな。あれはありがたかった、よかったですね。それぞれ個性もあってよかったですね。
       あと、プログラムそのものは特に仕組んでいませんでしたので、学術的な特徴と言われたら、一般的なことしか言えません。トレンドに沿ってだいたいいい感じで進んだのかなということと、僕は具体的に自分自身がすごく力を入れたわけではないですけど、やっぱり学会の在り方として高校生のような次世代を担う人たちへのインプットというのはすごく大事な気がしています。物理学会なんかはそもそも研究人口が少ないので毎年やっているのですよね。たぶん学生も100人じゃなかったと思う、相当の規模で招いているみたいで。

      【一條会長】 それは今回の何かの企画の話でしたっけ。

      【門松会頭】 高校生の発表会を実際にやったのですけど。今回急ごしらえで1年も時間がない、そう思っていたのですが、実際は東海地区だけでなくて遠方からも集まってくれました。発表そのものもちょっと指導教員の発表でしょみたいなものもありましたけど。でも、やっぱり来ている学生はすごく真摯だし、頭いいなと思う発表がすごく多かったですね。

      【一條会長】 あれは学校がスーパーサイエンスハイスクールとかが多かったですね。

      【門松会頭】 学校の先生が付き添いで来られるので、結構教育熱心なところはちゃんと来てくれるみたいなところがあるのですけど。今後生化学会として、こういう若い世代への発信をどうしていくかというのは考えていってもいいのかなとは思うのですね。分子生物学と生化学会が合体していくと、また考え方が違ってくるのかもしれませんけど。生化学会そのものが今少しまた持ち直してきていると思うのですけど、ただ、なかなか人口が増えるということにならないと思うので、やっぱり理科離れも考えるともう少し積極的に物理学の学会のような感じのアプローチはあるべきなのではないのかな。生命科学を代表する学会なので。

      【一條会長】 そうですね、そういう意味で分子生物学会もやっぱり高校生発表をやっていますし、結構積極的に出張講義、出張授業か何かも組んでいるのですよね。

      【門松会頭】 そういうことをやっているわけですね。逆に分子生物がやっていればいいのかもしれませんけども。

      【一條会長】 いやいや、それはそれでいいと思うのですけど。そうはいっても、発表の枠はそう多くはないので。今回はどのぐらい、何人ぐらいに発表してもらえたのでしたっけ。

      【渡辺】 ポスター発表が16,口頭発表が9、参加者は86人でした。

      【一條会長】 遠方からというと、高校生は旅費とかのことも考えないといけないですね。全国からということになると。

      【一條会長】 名古屋大会で困ったことは何かありましたか。

      【門松会頭】 一番困ったことは企業ですね。企業については本当に、事務局とか運営会社にも苦労していただいたのですけど。やっぱり運営会社だけの力では動かないのですね。ですから、幹事会の先生たちに最後の最後に動いてもらって、知り合いに声を掛けていただいたりして、何とか帳尻を合わせるぐらいまでは集めることができたのですが、もう少し応援団がいてくれるといいなと思う一方で、例えばランチョンセミナーみたいなものを僕は今回は最初からあまり考えていなくて、それは別にお弁当とかがちゃんと用意できれば、みんながお金を出して買えばいいじゃんというふうに逆に思ってしまうので。ランチョンセミナーをたくさん設けるつもりは全然なかったのですけど。でも、企業展示とかああいうところでお金が稼げないと大会そのものが運営できないので、そこは最後まですごく気にしていましたが、運営会社は割とそういう意味では、「何とかなると思いますよ」という感じで。

      【一條会長】 コロナの影響が大きいですよね。

      【門松会頭】 大きいですね。

      【一條会長】 対面で開けないと、企業展示も何もないわけなので。結構最後までというか、企業側の決断する時期がなかなか、対面でやることを決めた時期からでは企業展示が間に合わないとか、そういうことも結構あったのではないかな。

      【門松会頭】 おっしゃるとおりです。

      【一條会長】 そういう意味でいくと来年あたりは企業側も当然対面でやるだろうと思ってどんどん復活してほしいところですけどね。あとは、名古屋ということで、あの会場はすごく良い会場なんです。ちょっと駅からは離れてますけどね。

      【門松会頭】 そうですね。駅から離れているのと、周りに気の利いたレストランとか食堂が少ないので、そこは少しありますよね。

      【一條会長】 でも、人数的には今回は多く集まったのではないですか。

      【渡辺】 参加人数は約3,000人です。コロナ前の横浜は3,200人でしたのでやや下回りましたが、演題数は100題近く増えました。

      【一條会長】 横浜はいつも人が多く入る場所なので、それに比べるとすごく増えたんですね。今年の開催地の福岡は場所は本当にいいですよね。会場そのものは何会場かに分かれるのでしたっけ。

      【住本第96回大会会頭(以下、住本会頭)】 基本的には国際会議場というのがありまして、そこがメイン会場になって、そこからすぐ隣にマリンメッセがあって、そこでポスターをやるという感じです。歩いて3、4分ぐらい離れています。ちょうど今年、「世界水泳選手権2023福岡大会」があるのですけど、このマリンメッセを使うのですよ。B館は新設されたばかりですので、新しくていいんじゃないかと思います。

      【一條会長】 水泳場があるところなんですか。プールがある?

      【住本会頭】 そこにプールを造る、そのためにマリンメッセB館のすぐ外に設営するのだそうです。
       国際大会でも今どきそういうことをするみたいですね。短期間でバタバタと造るのではないでしょうか。そして、終わったら、すぐ元に戻してしまうということみたいなので。ちょっとしばらくは様子を見に行けないなという話がこの間あったのですけど。

      【一條会長】 開催は何月でしたっけ。

      【住本会頭】 10月31日、11月1日、2日です。

      【一條会長】 その頃はもうプールはなくなっているのですね。

      【住本会頭】 もうなくなっています。この日程も、渡辺さんの素晴らしいアイデアで、実は生化学会が終わったあと3日間、11月3日、4日、5日と三連休になります。だから、いろいろな意味で九州をエンジョイしていただければなという日程になっております。

      【一條会長】 素晴らしい。ありがとうございます。福岡はいろいろな意味で便利なので、楽しみにしています。大会のコンセプトとかポスターとか特徴とかについていかがですか。

      【住本会頭】 私もない知恵を絞りまして、やっぱりここは一つある意味生化学会としての原点に戻って、そしてその上でなおかつ異分野融合を図ることが大事かなと考えました。ですので、もわっとしたものですけど、大会のコンセプトは「生き物は不思議だ!生化学は楽しい!」と致しました。
       生化学はそれこそ40年か50年前はかなり限られた人たちの学問という面が強かったと思うのですが、今どきは生命科学のある意味では基本の基本のところになっていますよね。ですので、そういう意味では、広がってはいるのですけども、もう一方で生化学としてどうやって深めるかということが一つの大事な問題かな。また今回の学会で、生化学プロパーの人たちもいろいろな分野にチャレンジする切っ掛けになってもらったらいいな。そういうことを考えております。ポスターにはそういう気持ちを表したつもりです。それと、半分ちょっとくらい私の趣味も入っています。
       「生き物は不思議だ!」というときに一番不思議な生き物は人間かなということがありますので、左上にまず「人間」。これは男性を出しても女性を出してもよかったのだと思いますが、これはご存知の方も多いと思うのですが、フェルメールという人が描いた「真珠の耳飾りの少女」という絵です。数年前、日本に来てご覧になった方も多いと思いますね。

       

      【一條会長】 これは元はどこにあるのでしたっけ。

      【住本会頭】 これはオランダにあります。フェルメールも17世紀のオランダの人で、フェルメールが描いた絵は世界中に散らばっているのですけども、この絵はオランダにあります。その流れで、右下の絵もフェルメールが描いた「地理学者」という学者をモデルにした絵なんですね。この絵はドイツのフランクフルトにあります。この絵とペアになる絵「天文学者」というのが実はルーブルにあって、この2枚ともモデルはレーウェンフックだといわれています。レーウェンフックといいますと、我々にぐっと近くなるのですけども、顕微鏡を使って初めて単細胞生物を観察したオランダ人です。レーウェンフックとフェルメールは同じ年にオランダのデルフトで生まれて、お互いに交流があったみたいですね。ですから、レーウェンフックは顕微鏡を最初に作った人の1人といわれていますけども、自作の顕微鏡を使って観察した絵をイギリスの王立協会に手紙で送っています。彼の名声を残すために役立ったのは、王立協会にいろいろな観察をするたびに手紙を出していて、その手紙の中の挿絵が実はフェルメールが描いたのではないかという説もあるぐらいに近い。フェルメールが死んだあとはレーウェンフックが死後の財産の管理人をやっていたというぐらい、近い関係なんです。このモデルが着ているのはジャパニーズ丹前なんです。この頃から日本とオランダの間はかなりの交流があり、日本でもいろいろな西洋のものが入ってきたのはオランダからという感じがありますよね、江戸時代に。日本の丹前というのが暖かくて、輸入品としてオランダで流行っていたらしいのです。このモデルが着ているのも丹前だといわれているのですね。左端に何かへんてこりんなものがあると思うのですが、これが実は顕微鏡なんです。レーウェンフックの自作の顕微鏡です。今の顕微鏡とちょっと感じが違いますけど。
       丹前を着た学者から顕微鏡に至るまでの間に、微生物として、O-157の電顕写真(感染症研究所の伊豫田 淳 先生にご提供頂いたものです)と酵母の電顕写真(九州大学の岡田 悟 先生にご提供頂いたものです)を載せています。そして、人間に至るまでの生き物をずらっと並べました。今度は日本の絵をも入れようと思って、まず植物として、真ん中の下に隠れて金色が光っている画は「燕子花図屏風」といって尾形光琳がカキツバタを描いたものです。その横は京都の高山寺が所有しているいわゆる「鳥獣戯画」。サルとかウサギとかカエルというのも生物学者にも比較的なじみの深いところです。その左上にサカナがいっぱいいるのは伊藤若冲の「動植綵絵」の1つです。この中にサカナとしてのモデルでもあるフグもちゃんと入っています。

      【一條会長】 これはトラフグですね。

      【住本会頭】 これはトラフグです。そして左上にあるのは、もともとはドイツ人ですけどオランダで画家であり、最初の昆虫学者といわれる、女性ですけど、マリア・ジビーラ・メーリアンという学者が自身で描いたスケッチです。この人が昆虫の変態、要するに幼虫から蛹になって成虫になるという過程を初めてきちんと記載したということで、「昆虫学の母」ともいわれている人です。これでは、ネズミがいないじゃないかというので、若冲の画の下にいたずらでバンクシーが描いたネズミを入れました。

      【一條会長】 全然気がつかなかった。

      【住本会頭】 次に、いろいろな生物の共通項という意味で、真ん中のバックに二重らせんのデザインを入れました。また、何か象徴的な意味をもつタンパク質の立体構造も入れようと思いました。そこで選んだのが、アドレナリンレセプターと3量体Gタンパク質のコンプレックスの構造です。真ん中の上の方でヘリックスがずらっと並んでいるのは7回膜貫通部分で、その下に3量体Gタンパク質の3つのサブユニットα、β、γがあります。これはノーベル賞受賞者のKobilka先生のグループが決めた構造を、ちょっとモディファイして使わせてもらっています。さらに、生物に共通する分子の代表としてATPとかNADPもバックに入れました。

      【一條会長】 面白いですね。思い入れが満載ですね。

      【住本会頭】 これは結構凝って作りました。そのコンセプトは先ほども言いましたように、生き物の不思議さと、それを扱うときに分子のレベルでやる研究の楽しさみたいなものが伝わればいいかなというのが希望です。せっかく日本の端っこの九州に来てもらうので、いろいろな意味でリラックスしてもらった上で学問を楽しんでいただけたらなと思います。

      【一條会長】 ありがとうございます。素晴らしい。お聞きするとよくわかったのですけど、ポスターに説明は書かれているのですか。

      【住本会頭】 いや、書いてないのです。

      【一條会長】 じゃあ、このインタビュー記事が全会員に送られたら。

      【住本会頭】 謎解きでみんなで思って、どういうことかなと。

      【一條会長】 いや、わからない。今のは絶対聞かないとわからない。

      【住本会頭】 それでしたら学会に来たらその解説文とかを載せておくとか。その一部をこの対談でリークしてもらってもいいかもしれません。

      【門松会頭】 僕も一條先生と同じで、住本先生のこのポスターだけで合格という感じがします。ぜひ解説を、このインタビューも含めてですが、例えば表紙絵の裏ぐらいに丁寧に書いていただくと感動すると思うのだけど。

      【住本会頭】 わかりました。ちょっと考えます。

      【一條会長】 ポスターとともにコンセプトがよくわかった気がするのですけど、今度はそれを実現するためのプランみたいなところは今どんな感じで進めていただいているのかを。

      【住本会頭】 今までのやり方と少し変わってしまってご批判を受けるかもしれないのですけども、特別講演の在り方をちょっと変えさせてもらおうと思って、思い切ってできるだけ若い方に、ということを考えました。とりあえず私(65歳)より若い人に話してもらうことにしました。それに加えて、せっかく九州でやりますので、旅費もあまりかかりませんし(笑)、九州の方にもお願いすることにしようと考えました。外国から招待することも考えたのですけれども、昨年は来日できるかどうかがギリギリまではっきりせず苦労されたという門松先生のお話を聞いていて、もうコロナは大丈夫だとは思いますけども、先のことは読めないので、そういうことでバタバタしたくないなと思いました。
       「生き物は不思議だ!生化学は楽しい!」という感じとともに「生命科学の未来に向けて」話していただくべく全国から3名の方にお願いして、その上で、さらに3名の九州地区の方にもお願い致しました。特別講演は参加者全員で聞く講演という意味もあり、一緒の学会に出たという意識を共有する上でも大事かなと思って選ばせていただきました。
       まず、生化学とも関係が深く、それから分子生物学とも関係が深いという意味で、大きくいったら分子細胞生物学となるのでしょうか、その分野で独創性の高い研究を展開され、さらに分子生物学会の理事長もされている後藤由季子先生(東京大学)に、極めて多忙だと知っていながら図々しくお願いしましたら、承諾をいただきましたので、後藤先生に話していただきます。それから、生化学といいますと、やっぱり代謝が歴史的にも重要な分野ですが、代謝研究の中で今新しい流れになりつつあるのが硫黄の代謝でして、その硫黄代謝の研究で世界をリードしている赤池孝章先生(東北大学)に話してみてくれないかとお話ししましてご快諾を得ました。もう1つ、これは私も自分がわからないなりに興味といいますか憧れがあるのですけども、理論的なことを生物学にどう持ち込むかというのはすごく大きな問題だと思うのです。私なりに勉強させてもらって面白いなという形を展開していらっしゃる方が望月敦史先生(京都大学)で、まだ50歳ぐらいなんですけども。理論生物学についての意識をみんなで共通して持つのはいいのではないか。例えばシグナルのネットワークとかももうネットワークだらけになって、どこが大事かをどうやって考えるのかがすごく大事な問題だと思うのですが、そういうことを非常にユニークなやり方でトライしている先生なので、こういう方の話をみんなと共有するといいかなというふうに思ってお願いしましたら、望月先生にもOKをいただきました。皆さんには、「生命科学の未来に向けて」という視点で、ご自身の研究・興味と重ね合わせて(例えば、こういうワクワクするテーマがまだまだ手付かずに残っている、というような話も含めて)話して頂くようお願いしています。
       九州地区からは以下の3名の先生に特別講演をお願いしました。九州地区と言いながら、結局人選が九州大学に偏ってしまったのは全て私の責任です。ご批判は多々あろうかと思います。ただ、聞いてよかった、という話をしていただけるものと確信しています。生化学にとっても切っても切れない構造生物学については、NMRもX線もクライオ電顕も含めて広い経験と見識をお持ちの神田大輔先生(九州大学)にお話しいただきます。今回の特別講演者の中では年齢が一番上で、私より一つ下なんですけど、ちょっと広い歴史的なことも含めて話してもらえたらなと思って、神田先生にお願いしました。
       また、ゲノム科学はこの30年間生化学にもすごく大きなインパクトを与え続けてきたわけでが、ゲノム科学の中核で仕事をされてこられた伊藤隆司先生(九州大学)にはゲノム科学の未来を含めた話をしてくださいというお願いをしています。それから、先ほど言いました理論生物学、望月先生の話とちょっと違う形から理論的なことをやっている三浦岳先生(九州大学)。この方はお医者さんですが、いわゆる形態形成の数学をバリバリやっている人です。
       そういう方と、最初にお話した3人と組み合わせて1日に、ちょっと時間がタイトになるのですが、2つずつ特別講演をやってもらって、みんなで統一した問題意識とか、今後の方向性とか、そういうことも考えてもらいたいと思って、そういう企画をしました。特に九州地区の先生方には、それぞれに関連したシンポジウムも組んでもらっていますので、特別講演を聞いて興味を持った方はシンポジウムにも行ってもらうという流れにしております。

      【一條会長】 特別講演のときは、他にパラレルに走るものはやらないですよね。

      【住本会頭】 やらないです。ちょっと日程が詰まるのですが、3日目の夕方もまたシンポジウムをするようにして、何とか時間をやりくりしようと考えています。3日目の次の日(11月3日)は休みですし。それから、シンポジウムはかなりいろいろな方にお願いいたしまして、若手中心のシンポジウムも色々とあります。一方で、生化学会前会長の菊池章先生(大阪大学)ともいろいろ相談しまして、「先輩方から、私はこうやってきたんだという話をじっくり聞くようなシンポジウム」もあったほうがいいじゃないかということで、菊池先生オーガナイズの、まさにあっと驚く豪華シンポジストによる豪華シンポジウムも開いていただきます。また、同様の先輩方によるシンポジウムは、2012年の福岡での生化学会大会の会頭をされた藤木幸夫先生(九州大学名誉教授)にも企画して頂きました。こちらも負けず劣らず、あっと驚く豪華なシンポジストです。

      【一條会長】 もう7、8年前だと思いますが、分子生物学会でしたけど、「シグナル伝達温故知新」といって、そういうシンポジウムを組んで、黎明期の頃から歴史も含めて話してくれと言って大御所の先生を5、6人集めてやったことがあります。めちゃくちゃ好評でした。そういうのは若い人にとっても歴史的な背景を知るというのは結構いいかなと思います。楽しみですね。

      【住本会頭】 菊池先生オーガナイズのシンポジウムでは、菊池先生に加えて、長田重一先生(大阪大学)、西村いくこ先生(奈良国立大学)、中野明彦先生(理化学研究所)が、一方、藤木先生オーガナイズのシンポジウムでは、藤木先生に加えて、大隅良典先生(東京工業大学)、永田和宏先生(JT生命誌館)、吉田賢右先生(京都産業大学)、伊藤維昭先生(JT生命誌館)がシンポジストとして話して下さいます。このような素晴らしい先輩方からの話が、若い人たちにとって、今後の何らかの切っ掛けになってもらえればいいなと思っています。
       また、他にも多くの意欲的なシンポジウムを企画して頂きました。とても全体は紹介しきれませんので、1つだけ。「生き物は不思議だ!」という観点からもサカナも興味深い生き物です。そこで杉本幸彦先生(熊本大学)には『魚が先導する生化学研究の新しい潮流』というシンポジウムをオーガナイズして頂きました(共同オーガナイザーは大阪大学の石谷太先生)。
       参加者にとって、ご自身の仕事の新しい展開のきっかけになりますことを切に望んでいます。

      【一條会長】 ポスターもそうですけど、思い入れがすごいですね。門松さん、いかがでしたか。

      【門松会頭】 住本先生のレクに圧倒されておりました。特に最後の2つの話はすごく興味深くて、若い人がどこまで反応するかわからないけど、我々の年代だとかなり反応するのではないかと思って。若い人を連れていけば、これは本当にためになるシンポジウムになると思ったし、住本君らしく、よくよく考えたプランになっていて、とても僕なんか足元にも及ばないと思ったし。本当にいい感じでいけるのではないかと思いました。

      【一條会長】 そういうシンポジウムのオーディエンスの年齢層を調べてみたいですね。

      【住本会頭】 大先生方、皆さん心配していて、ガラガラだったらどうしようかと言われているので、狭い部屋にしてくれと逆に言われているのですけど。いや、結構入るのではないかなと私は思っています。

      【一條会長】 ポスター会場とかの特徴はありますか。

      【住本会頭】 今ちょっと考えているのは、できればポスター会場にただでサンドイッチとかおにぎりを配れればいいなと、個人的には思っているのです。そういうものを食べながらディスカッションしてもらってもいいのかなというふうに思っています。

      【一條会長】 好き嫌いはありますけど、ビールなんかがあるともっといいですね。

      【住本会頭】 個人的には絶対そうです。それとキッチンカーを呼んで会場の近くか中ぐらいのところに誘導したらどうかなと考えています。

      【一條会長】 キッチンカーがあるとありがたいですね。博多の屋台みたいなものがずらっと並んでいると。

      【住本会頭】 どこもそうでしょうけど、キッチンカーは福岡でも今ものすごく増えていまして、結構おいしいものを出すところも多いみたいですので、それができればなと思っています。あと、結構懇親会の参加者が多いかもしれませんので、そこは会長、ぜひよろしくお願いします。

      【一條会長】 思い入れたっぷりだということは非常によくわかりました。本当にありがとうございます。楽しみです。今日はどうもありがとうございました。

      【住本会頭】 こちらこそ、ありがとうございました。

      [了]

  • 会長便り第3号:最近の動向

    • 会長便り第3号:最近の動向

      2022年9月1日

       

      早いもので、会長に就任してからあっという間に1年近くが過ぎようとしています。今回は未決事項含めて生化学会で進行中の検討事項や理事会で決まったばかりの情報をupdateしたいと思います。

       

      ・第95回大会@名古屋はオンサイト開催に!

      本年11月9日-11日に名古屋国際会議場で開催される第95回大会の開催形式は、コロナ感染状況を睨みつつごく最近まで検討を重ねてきましたが、最終的にオンサイトのみで行うことを決定しました。11月時点での状況は未だ不透明なものの、十分な感染対策をとり注意喚起することで大きなリスクは回避できるものと判断し、3年ぶりの完全リアル対面形式です。コロナ以前から減少傾向にあった演題数も門松会頭はじめ組織委員の方々のご尽力でV字回復模様です(表1)。皆様のお声がけに感謝しております。来年の福岡96回大会(住本会頭)では目指せ!2000題復活?でしょうか。

      また、まだ最終決定ではありませんが、生化学会ならではの会長主催懇親会も大会初日(11月9日)夜に開催予定で計画を進めています。久しぶりの懇親会復活を契機に、若手会員や女性会員にも参加しやすい、なるべくアットホームな懇親会を検討中ですので、みなさまどうぞ奮ってご参加ください。

      対面形式復活に期待が高まる一方で、過去二年に亘るWEB開催の経験から、その長所も多々学ぶことができました。今後の開催形式として、コロナ収束後も例えば特別講演やシンポジウムはオンライン配信やオンディマンド配信を併用して、海外研究者の参加を促したり、どうしてもリアル参加できない方の便宜を図ることも検討予定です。

       

      ・学部・修士学生会費無料の効果?

      2011年に総会員数が1万人を割り込んで以来ほぼ毎年減少が続いていましたが、2021年8月時点の7439人から今年8月末時点で7603人とついに会員数も増加に転じつつあるようです。日本人の出生率と人口の減少を考えれば、会員数の減少は基本的に避けられないもので、これは生化学会だけの問題でもない訳ですが、やはり少しでも会員増を目指す工夫は必要です。そのような中、今年度の反転増加は喜ばしい限りです。やはり学部生ならびに修士までの大学院生の会費が無料になったことはその要因と考えられます。会費収入こそ一時的にはむしろマイナスになりますが、若手加入による学術大会の活性化や、将来的に博士学生の会員数や正会員数の増加に反映されることを大いに期待しつつ今後を見守りたいと思います。

       

      ・女性・若手の執行部参画推進計画

      会員種別男女比(表2)を見ると一目瞭然なのですが、学部学生では女性が65%と男性よりも多いのに、修士、博士、正会員、評議員、代議員、理事とキャリアアップするにつれ、完全に男性優位となり、執行部母体である理事に至っては現23名中たった2名となっています。年齢分布も例えば評議員で見ると(表3)、60代が最大となっていて、やはり将来の学会運営を担うべき精鋭の中に女性と若手が圧倒的に不足していることが分かります。生化学会の執行部役員選出のメカニズムは基本的に各支部から選出される代議員が母集団となりますが(図:水島元会長の会長便り第3号より改変)、各支部のご尽力にもかかわらず、どうしても女性と若手を継続的に代議員として選出することの難しさに直面しています。そこで、現在常務理事会では、支部選出代議員とは別に、全国区枠として直接女性と若手(50才未満)の理事を選出する仕組みの導入を検討中です。また、代議員候補者としての参考資料となる評議員リストに女性を増やすために、会長一括推薦という形で最近22名の女性PIに評議員になって頂きました。地味な改革ですが、少しずつ前に進めています。

       

      ・ツイッター復活

      日本生化学会のツイッターアカウントが復活しました。

      ユーザー名: @jbs_seikagaku

      よろしければフォローお願い致します。

       

      ・支部探訪

      ご存知のように、日本生化学会は北海道から九州まで全国8つの支部から構成されています。会長の重要なミッションのひとつに、支部例会時に各支部を訪問して地域の課題や意見を聴取し、理事会に反映させることがあります。今年度は依然コロナの影響で支部例会がオンライン開催のケースも多く、また招待頂いたにも関わらず日程が合わず断念せざるを得なかったケースもあり、残念ながら現地に伺ってリアルでお話しできたのは北海道支部だけでしたが、期待していた以上にたいへん勉強になりました。例会ならびにシンポジウムにおける活発な科学的議論はもとより、支部会幹事の方々のご要望や本会の目指すべき方向性について昼食を挟みながら議論出来たことはたいへん有意義でした。頂いた課題は、今後理事会等において検討する予定です。

      なお、北海道支部長の田村北大教授から支部例会便りを頂きましたので、以下に転載します。

      〜北海道支部は北海道地区の生化学会会員で構成され、会員数はおよそ200名(2022年7月現在)です。北海道大学、札幌医科大学、旭川医科大学、酪農学園大学が主な所属大学です。支部例会は昭和37年から、支部シンポジウムは昭和63年から行われ、今年は7月9日に北海道大学獣医学部を会場として第59回支部例会と第37回支部シンポジウム(日本生物物理学会北海道支部と合同開催)が、山口良文教授(北海道大学低温科学研究所)を例会長として開催されました。2年ぶりの対面での例会で、合同シンポジウム、一般講演、総説講演、特別講演およびポスター発表が行われました。また、支部若手奨励賞の授賞式および受賞講演も行われました。今年は、生化学会会長の一條秀憲先生が参加され、特別招聘講演が行われました。延べ100名近くの参加者で、会場では活発な議論が交わされ、支部の研究者・学生の久しぶりの対面での有意義な交流の場となりました。〜

       

      以上、会長便り第3号をお届けしました。次号以降では「会長副会長懇談会(その3)」や「第95回大会会頭に聴く」などを予定しています。

  • 会長便り第2号:日本生化学会 会長・副会長座談会〜その2〜

    • 会長便り第2号として、両副会長との座談会〜その2〜をお送りします。
      なお、この座談会記録の内容は、各人の発言の意図が会員の皆様に正確に伝わるよう、録音の文字起こしの後に編集を加えた上でお届けするものです。
      一條秀憲


               

              日本生化学会 会長・副会長座談会

              日時:2022 年 2 月 18 日(金)午後
              場所:東京大学 薬学系総合研究棟 1F 186-2 一條教授室
              出席者:会長/一條秀憲、 副会長/水島昇、横溝岳彦、
              事務局/渡辺恵子

      〜その2〜

       

      会員数

      【会長】 生化学会YouTube に繋げる窓口として、生化学会Twitterも要りますね。それに関連するのだけど、会員数と収入がかなりリンクするので、会員数をどうやって増やすかというところが実は問題で、少しまだ漸減傾向が続いてはいたのでしたよね。

      ただ、菊地前会長時に決まったことですけど、修士の学生さんまでは学会会費が無料になった。当たり前のことだけど、無料なので新規入会は増えても、会費収入には反映されない。むしろ一時的にはマイナスになるのだけど、若い学生さんの加入による活性化や、将来的に博士以降の学生会員数や正会員数が徐々に増えていってくれることも期待できますね。ただ、しばらくは様子を見つつということになると思います。

      【横溝副会長】 会員数に関しては生化学会だけの問題ではないですけどね。ただ、もう少し大学院生やポスドクの待遇を、待遇というか少なくとも路頭に迷うようなリスクをもうちょっと減らしてあげないと、結局研究者も増えないし、そうなろうという大学院生も増えてこない。さっき水島さんが言った、小学校の頃は研究者になりたいとみんな言うのに、大学に入った後に、それが続かないのが問題ですね。

      【水島副会長】 大学入学時も研究者になりたいと思っている学生は結構いますね。大学に入ってからどうもブレーキがかかっている。

      【横溝副会長】 そうそう、大学の途中とか修士のあたりで、先輩たちを見て博士への進学をあきらめるというのが本当に多いですよね。そのあたりを根本から変えていかないと、生化学会に限らず会員数を増やすというのは難しいのではないかなと思います。SNSの影響もあるかもしれないけど、そういう声が最近、若い子から出るようになってきているんです。博士の待遇を変えてもらわないと自分たちは上に行かないよという声は前よりはずいぶん聞こえるようになってきたと思います。ただ、それが政治家とか、そういうところまで伝わっているかどうかはわからない。

      【会長】 そういうことに関して、学会としてできることはあるんですかね。

      【水島副会長】 学会に入るメリットがちょっとわかりにくくなっているのは確かだと思う。別に学会に入らなくてもやっていけると思ったら入らなくなる。我々が大学院生とかのときは学会に入らないとあまり発表する機会がなかった。当時はリトリートとか班会議とかもあまりなかったから、学会に入らないと、という気はあった。でも、今は入らなくてもいくらでも発表のチャンスがあるのでは?

      【会長】 学生にとって会員になるメリットって何かですね。でも、リトリートとか班会議ってすごく限られた、ある意味非常にアクティビティが高い一握りのラボだけしかチャンスがなくて。そういったラボに所属する学生にとってはすごくいいのだけど、やはり普通の誰でも入れると言うと変かもしれないけども、発表と質疑応答の機会が広く開かれた機会を与えてくれる学会は大事ですよね。

      【水島副会長】 特に大きな生化学会には、いろいろな分野が集まっているというところに魅力を感じてもらえないと、と思うのですけども。我々が「魅力があります」と言うだけではなく、そういう大きな視点が魅力的だと彼ら自身に思ってもらわないとなかなか伝わりにくいかなという気もします。小さい研究会のほうがわかりやすいし、話も通じるから、やっぱり居心地がいいんです。

      【会長】 確かに、専門に近い小さな会合の方が居心地がいい。でも、井の中の蛙にもなりやすい。昔は学会に入るのが当たり前だったし、とにかく入って、敵(?)がいっぱいいる前でドキドキしながら話をすることに憧れがあったというか。

      【横溝副会長】 ラボに入っても学会に入らない人は多いですか。うちは自然に入っている人が多いのだけれど。

      【水島副会長】 発表しないで入る人はいます?

      【横溝副会長】 ああ、そうだ、発表を機会にですね、もちろん。

      【水島副会長】 自分たちのときは発表するから入りました?

      【横溝副会長】 いや、発表前に大学院に入った瞬間に入るものだと言われて入りました。

      【会長】 臨床の学会は強制的に入らされたので、大学を卒業したら即時入会だった(笑)。その後大学院に入って基礎研究はじめてからは、研究をやっていくうちに、発表する場所はどこだろう(?)って、そんな感じでしたね。

      【会長】 ところで、会員の年齢分布の資料って、ありましたっけ?

      【横溝副会長】 ありますよ、この次の女性比率に関するテーマにも関係しますが。

       

       女性比率、LGBTQ

      【会長】 男女比率に関して、少しではあるけど、女性は増えている(資料3)。
        


      【横溝副会長】 若手女性がちょっと増えたけど、50代60代は8年前とあまり変わらない。会員数全体は減っているけど、割合としては増えていますね。

      【水島副会長】 ということは、待てばだんだん女性比率は上がっていくかもしれない。でも、全体的に23%はまだかなり少ないですよね。

      【会長】 例えば東大の研究者比率は、25%を目指すというのが2008年ぐらいから目標としてあって、ごく最近それをさらにミッション化して、促進しようという動きがあるんですけど、それでも目標は25ですからね。ちなみに東大薬学は今10-15%ぐらいかな、医学部はどうですか。

      【水島副会長】 医学部は今全教員で22%ぐらいです、助教以上で。

      【会長】 研究員はカウントしないんですよね。このあたりの算出基準は大学によって全然違うのですよね。

      【横溝副会長】 正確な数字は覚えていないけれども、順天堂大はほかの大学に比べて女性教員は多いと思います。

      【水島副会長】 博士取得者のなかでは4割近く占めていて、ちょうどこの20代の女性ぐらいいます(資料3)。

      【横溝副会長】 女性が多くなりましたよね。うちのラボでは女性のほうが多いですよ。

      【会長】 ローカルな話だけど、薬学は3割から4割ぐらいが学部生ではいるんです。東大理系の中ではかなり多いほうです。ところが修士になり、博士になるとどんどん減っていって、教員、特に教授ともなると約20人中1人しかいない。

      【渡辺】 全体で23%の女性比率は、他学会と比べて高い方ではあると思います。

      【会長】 でも、今、女性の理事が2人なんですよね。24人中2人で、それは少なくとも2人は入れるということが規則で決まっているから何とか2人いるけど、これは学会として何とかしなければいけないですね。以前、理事会でこの話がでた時、何が問題点として挙げられたかというと、やはり母集団としての会員がそこそこいる(23%)のに上に行くほど減っていくことが問題で、理事の被選挙権をもつ代議員に女性が少ないこともボトルネックの一つだと分かったんですよね。

      【水島副会長】 代議員を選ぶところでだいぶ減ってしまうんですね。

      【会長】 そう、減ってしまうんです。さらに代議員が選ばれるときに評議員名簿がかなり参考にされるのだけど、評議員の女性比率が8%とすごく少ないのです(資料4)。なので、今検討しているのが、会長推薦として女性評議員を一挙に増やすことと、代議員選挙時に女性と若手に限定した全国区枠を設けて理事候補になって頂くというアイディアです。
       

       

      【横溝副会長】 要するに女性PIが少ないということも要因ですね。つい数日前に医科歯科の難治研の教授公募があったのですが、4講座の募集が同時に始まって、びっくりしたのですけど「1講座は必ず女性を採用する」と書いてあったんです。初めて見ました。

      【会長】 それはすごいですね。

      【水島副会長】 女性限定公募は結構ありますよ、千葉大もあったし、東工大もありました。

      【横溝副会長】 残念ながら現状ではそのぐらいしないと増やせない。それでもやっていかなければいけないという大学の態度の表れでしょうね。ちょっと大学と離れますけども、国際学会のシンポジストを企画したりするときはすごく女性比率の基準が厳しいですね。FASEBとかKeystoneを担当すると必ず30%とか25%と言われて、それをクリアしないとシンポジウムをやらせてもらえないです。特にFASEBが厳しいです。

      【水島副会長】 女性比率が低いと継続できないですね。ゴードンなんかも。

      【横溝副会長】 そうそう。打ち切られてしまうのです。あと、マイノリティもそうですよね。女性の比率とマイノリティの割合がきちんと決められていて、それをクリアできないと、もう2年後は開催しません。アメリカはそこが徹底している。

      【会長】 女性比率とともに今日挙げたテーマのひとつに「LGBTQ」がありますが、女性比率の話をするときに、Qも含めてどちらでもないという人はどういうふうに考えるのかみたいなことは時々話すんです。だけど、やはり現時点ではまずはLGBTQ課題とは別に女性比率を上げるということをやって、その次で考える、別に考える、みたいな感じで進んでいますね。そういった取り組みが世の中的にどうなっているか、ご存知ですか?

      【水島副会長】 この前、東大全学の女性人事加速の意見交換会でもその話しが出て、やはりまずは別に考えますという感じに。

      【会長】 やはりそうですか。

      【横溝副会長】 うちの大学は、さっき会長が雑談をした時にお話ししたとおり、PIとか教員レベルでのLGBT問題はまだディスカッションの対象になっていません。むしろ学生さんとか、大学病院の患者さんでそういう方がおられるので、そういう方が快適に過ごせるようにということでレインボーマークがついたトイレを整備しています。あとは学生さんを呼ぶときも男の学生はこれまでは「何々君」、女性は「何々さん」と呼んでいたのを、全部男も女も「何々さん」と呼ぶようにというレクチャーが僕ら教員にもされるようになってきています。

      【会長】 進んでいますね。

      【横溝副会長】 いや、進んでいるかどうかわかりませんけど。LGBTの取り扱いに関してコンセンサスは得ているようなことはみんなでやっていこうねということが、本当にこの1年ぐらいでしょうかね、始まってきました。ただ、これは実は旗を振ってくれている女性の先生がおられて、その方がこうしたことに詳しくて、何から始めればいいかということを上層部に掛け合って、1年ぐらい前からそれが具体化してきたというのが現状です。ただ、教員選びとかのところはまだアンタッチャブルな感じになっています。

      【会長】 生化学会に入会するときには、男女どちらかにしかチェックができなくなっているんでしたっけ。

      【渡辺】 そうです。

      【会長】 今は世の中的には「それ以外」という項目も作るのでしたっけ?

      【横溝副会長】 「マークしなくてもよい」という方向です。

      【会長】 そういう例は実際にありますか。

      【渡辺】 それはしていないですね。男女どちらかというのは必須項目になっていて。ただ、「つけたくない」とか、それで問題になったことは今まではないですけど。

      【横溝副会長】 女性の人数を増やすということとは矛盾するわけですよね。性を問題視しないということと、女性を増やすということはある意味矛盾しているので、なかなか難しいですね。

      【会長】 その通りですね。順天堂でレインボーマークのトイレをたくさん作っているのはすごいなと思いますね。公共施設でもレインボーマークのトイレをあまり見たことがない。マークのことは知っているけど。

      【横溝副会長】 ただ、LGBTを考えたらそうですけど、今は小学校なんかでも男の子でも個室がいいという子が増えてきて、そういう意味でも方向性は同じだと思うんですね。小便器がだんだんなくなって個室をたくさん作る方向で文科省も動き始めているみたいです。個室になってくれれば、ある意味でレインボーマークトイレと同じようなものですから。

       

      支部活動、地方活性化

      【会長】 そろそろ次の話題に進めようと思います。生化学会の大きな特徴に支部活動があって、横溝さんが支部担当副会長でしたよね。支部会が開催されるのは、だいたい5月から7月ぐらいに集中するんですけど、今年はコロナ禍空けてリアルで開催されるようであれば、私もなるべく現地まで伺って、支部活動に参加したいと思っています。基礎系の学会で支部活動がある学会は、珍しいほうじゃないでしょうか。

      【渡辺】 そうですね、珍しいと思います。

      【会長】 ある意味、支部で成り立っているというか。少なくとも北海道から九州まで各8つの地域の支部会で発表会が開かれるんですよね。それ以外の活動は何があるんですか。

      【渡辺】 支部独自で、結構北海道とかは講演会とかをやったりとか、独自色を打ち出して活動していただいてますね。

      【会長】 水島さんが会長の時に何かやられましたか。

      【水島副会長】 はい、東北と関東と中国四国支部に行きました。でもそれは会長としての視察というよりも、講演を依頼いただいたので。

      【横溝副会長】 私が九大にいた時は九州支部会に参加していましたけれど、奨励賞の地方版をやっていました。奨励賞はなかなかコンペティションが激しいのですけど、九州支部会のほうがハードルが低いので、2人ぐらい毎年九州支部奨励賞を出していまして、それがプロモーションに結構役に立っていた感じです。あとは、オーラルで全員しゃべらせるという原則だったので、「初めてのオーラルなんです」と言う学生さんが結構多かったです。

      【会長】 会場は大学の?

      【横溝副会長】 大学の教室が多いですね。

      【水島副会長】 支部はそれなりのサイズのコミュニティができていてすごく良いなと思うのです。一つの大学内だけだとそんなにいないけれども。関東支部はちょっと大きすぎるので、また別の印象かと思います。関東以外の支部って割と良いサイズで。近畿もちょっと大きすぎるのかな。

      【渡辺】 近畿は300人ぐらい集まるんです。関東は100人ぐらいですけど、近畿はすごい300人です。

      【水島副会長】 関東の会員は支部に属しているという意識があまりないかもしれないですね。でも、ほかの支部は割とコミュニティができている。中国・四国支部は海で隔てられていますがどうですか?

      【横溝副会長】 四国で一回呼ばれて福岡から行ったことがありますけど、やはりコミュニティがしっかりできている感じがします。みんな仲が良くて。

      【水島副会長】 北陸3県というのは歴史的にこうなっているのですね。富山、石川、福井だけで、新潟は関東支部ですね。一般的にも、新潟は北陸にはいらないことが多いんじゃないですか? 天気予報とかでも、関東甲信越といえば新潟までひとくくりですよね。

      【会長】 生化学会の中では、ずっと前からこの割り振りで決まっているんですよね。

      【渡辺】 創立あたりから。

      【会長】 支部活動は生化学会の特徴だし、今後もよりアクティブに活動して頂けることが大事でだと思うんです。実際、支部長は皆さん理事ですものね。理事24人中8人が支部代表理事。支部活動を応援するために、こちら側から何かできることはあるでしょうか?

      【水島副会長】 今は年間30万円の補助金を出していますね。

      【渡辺】 はい、シンポジウム補助金で30万円。

      【水島副会長】 最低限ではありますが、金銭的なサポートはできていて。逆に理事会に全国から来てもらっているというのはすごく良いと思うんです。熊本地震の時も九州支部の支部長さん(当時隅田泰生先生)から状況をご報告いただけて、本部でどういうサポートをしたらいいかという議論がすごくしやすかった。
      それに、年大会に来るとやはりお金が結構かかる、特に遠くから来ると。それほどお金をかけずに気楽に発表できる場があるというのは活性化にはなると思いますね。さっき言った班会議とかいうのは特別な予算に紐付けされてしまっているので。自由になんでも発表できる、そういう場があるというのは絶対にいいと思うんですね。

      【横溝副会長】 北海道とか九州の支部活動が活発なのは、そういうこともあるんですね。

      【会長】 なるほど。

      【横溝副会長】 北海道も活発ですよね。だから、東京までは行きにくいけど北海道で発表できるのだったら、私も発表してみようかということなんですかね。

      【会長】 やはり研究室10人挙げて北海道から東京まで来るというのは、すごくお金もかかりますよね。

      【会長】 例えば、誰か生化学会の会員が支部内の大学に移って来た場合、その人が支部会に加入するかどうかって、支部会から声を掛けて「入ってください」という感じのリクルートの仕方なんですか?支部会の成り立ち方というか、維持のされ方ってどういう感じなのか。これは僕が知っておかなければいけないんだけど。

      【水島副会長】 支部会で発表するときは会員でないといけないんでしたっけ。

      【渡辺】 その支部によります。

      【水島副会長】 だから、もし会員でなくてもよかったら、そういうリクルートのチャンスではありますね。

      【会長】 生化学会の会員でなくても支部会で発表ができる?

      【渡辺】 そうでないと発表する人が少なかったりするんではないですか。それと、こういうキャンパスで開催するので生化学会に入っていなくても、この何とか大学でやるから発表したい人はどうぞみたいなかたちで募集しているところはあると思います。

      【横溝副会長】 支部会レベルだとチェックは入れられないですよ。

      【会長】 それは裾野を拡げるという意味でも、むしろいいでしょうね。

      【渡辺】 支部例会に参加するのは無料ですね、ほとんどが。なので、会員か会員じゃないかというチェックをする必要もないので、登録して発表してくださいという。ただ、会員だけにしかメール案内を出していないので、そこから転送されて「来週あるらしい」ということで口コミで広がるという程度かもしれない。

      【会長】 その「支部例会がこの日にありますよ」というのを生化学会本体からも周知するのをサポートできないのかしら。あまり意味がない?

      【渡辺】 会員にしかできないから。ホームページ上と会員にしかできないので。

      【横溝副会長】 ホームページを別に作っていましたね。

      【渡辺】 そうですね、支部のホームページは別にありますから。

      【横溝副会長】 九州支部会では結構人材のリクルートが行われていたような気がします。名前は出しませんけど、地方医大って助教の公募を出しても応募がないケースが結構あって、そういうときに教授同士が「実はうちで助教を公募しているのだけど、誰かいない?」みたいなことが懇親会なんかで話されて、それが切っ掛けで決まるということを何回か聞いたことがある。東京までは行けないけど福岡ぐらいまでだったら、赴任してもいいかな、というのは地方会ならではの利点かもしれない。

      【会長】 すべての支部会に出席して、問題点というか、他に何がサポートできるかを聞きたい。確かにアクセスしやすい各地域でみんな自由に発表ができるというのは良いことですね。生化学会の会員増にも繋がるし。

      【水島副会長】 学会のオーガナイザーとか座長とかは、女性もそうだけど、今後は地方の人がもっとうまく入るようにしていったらいいのかなと。

      【会長】 生化学会大会のとき?

      【水島副会長】 大会のとき。

      【会長】 これまで、そういう視点は全くないですよね。

      【水島副会長】 ダイバーシティとしては、性差もそうだけど、地域差も大事。

      【横溝副会長】 女性は結構気にして入れるようにしてはいましたけども、地域は確かに考えてなかったですね。

      【水島副会長】 座長が東大、京大とかばかりになってしまうのは避けたいですね。

      【会長】 支部会枠のシンポジウムがあれば?

      【横溝副会長】 それも面白いですね。生化学誌は支部会企画があるのですよ、特集が。支部会シンポジウムはいいんじゃないですか。

      【会長】 今年の門松さんの名古屋大会のシンポジウムは、どんな具合ですか?

      【渡辺】 シンポジウムの募集はもう終わっていて、足りるというか、予定よりも多く来ているのと。一応女性オーガナイザーとか若い方をというような募集の仕方はしているんですけど、出たとこ勝負なので、活動としてはお願いベースしかないという感じですかね。

      【水島副会長】 大会長がそういうバランスをちょっと配慮してもらえればいいぐらいかなと思うのですが。オーガナイザーが2人いれば1人はとか。支部企画とすると、またちょっと負担が重いかもしれない。

      【渡辺】 以前、関東支部が大会の時に関東支部企画をやりたいということで1枠あけましたけど。それを支部の担当として、今度はどこどこでというふうにすると負担がちょっとあるのかなというところがあります。

      【水島副会長】 10兆円ファンドもそうですけど、これからは本当に集中がもっとすごくなっていくかもしれないじゃないですか。学会のような活動こそは絶対に集中しないようにするのが大事。

      【会長】 確かに放っておくとどうしても集中してしまうので、意識的に介入することが大事ですね。

       

       早石修記念海外留学助成

      【会長】 では次に「早石修記念」。これはまさに水島さんが会長になった時に小野薬品からこのご寄付が10年分あって、本当に有り難いと思いました。いよいよ残りあと4年になってきたということと、関連して、海外がインフレなのに対して、最近は日本がデフレでGDPなんかも30年前から変わっていないとかいう話もあって。外国人が来るにはすごく安くて居心地良くなっているとは思うんだけど、こちらから留学する場合は辛い。留学先で定められている最低賃金が700万円もする場合もあるようで、普通の留学助成金では賄いきれないこともあるみたいですね。

      【横溝副会長】 NIHが5万3000ドル。

      【会長】 これまで比較的高額の留学助成をしてきた民間財団もお互いに相談しているんですかね。

      【水島副会長】 早石修記念も当初は500万円で目立っていたけど、残念ながらだんだん埋もれてきた。

      【会長】 だけど、単年度でしたよね。500万円×1年。

      【水島副会長】 どこか2年出しているところがありますね。

      【会長】 第一三共生命が550万円×2年、あと海外学振も2年間なので。

      【水島副会長】 小野薬品の最初のご提案は400万円×10年だったんですが、一條さんが500万円にしたほうがいいと言ってくれて。

      【会長】 そうだったかもしれません。最低賃金って5、6年前でもすでにそういう兆候があったんですよね。当時は財団から200万円とか300万円もらって、それを留学先のラボに入れて、ラボから最低賃金に相当する給料をもらうというかたちになっていた。

      【水島副会長】 早石修記念で留学した人たちのその後はどうなのでしょうか?

      【横溝副会長】 今ぽつぽつ出始めましたね、帰国した人たちからの報告。

      【会長】 それはちょうど最近、担当の東原さんと胡桃坂さんとで議論してもらったんですよね。確か、帰国後というか、これをもらった人たち全員に書いてもらうかたちになっているはずです。

      【渡辺】 生化学誌の「柿の種」は基本的には全員に書いてもらうということで。

      【横溝副会長】 日本でこれだけ就職できた人がいたとか、ポストを取れた人とかの情報もわかると良いですね。あと、早石留学助成金の選び方はどうでしょうね。10年同じでもいいのかもしれないけど。私もそのルールを作った1人ではあるんですけど、選考に関わっていた時にちょっと気になったのは、新入会者でも応募できるという点です。最初、応募者が少なくなるのではないかという危惧のもとに、生化学会に何年加入していたとか、そういう条件を設定していなくて、申し込みと同時に入会でもいいというルールにしてしまったんですね。私、この2、3年は選考に関わっていないのですけど、私が関わっていた頃は明らかにこのグラントに応募するために入った人というのがいて、結構業績が良い人だと通ってしまって、本当にこの人は将来生化学会に貢献してくれるだろうかというふうに?がつく方々が結構いたんですね。今は、結構定着してきたので、どこかのタイミングでもう少し厳しめにしてもいいのかなと感じています。

      【会長】 海外からでも応募できるようになっているので、要するに向こうに行ってからの強い業績を元に応募してきたらどうするかという。それを今考えてもらっている。

      【渡辺】 今の募集要項は、本当に会員でありさえすればOKということになっていますので、会員歴2年とか3年という縛りをつけるとか。奨励賞なんかはそのようになっていますし。

      【水島副会長】 奨励賞でさえ3年ですね。

      【横溝副会長】 3年でいいんだ。

      【水島副会長】 そうなんですよ。それより長くはしにくい。会員限定にさせてもらったかわりに、そんなに強く縛らなかった。でも、そろそろちょっと変えても良いですね。背中を押すというのだったら、もっと国内の比率を増やしたらいいかもしれないですね。

      【会長】 早石修記念は重複受給は不可にしているのでしたっけ。

      【渡辺】 200万円まで。

      【会長】 200万円まで可にしているんだ。それはいいな。

      【渡辺】 他から200万円までもらっているというのであれば、うちが500万円出しますよと。200万円までどこかのグラントをもらったというのは重複規定に抵触していないということにしています。200万円って、そんなにはないですけども。でも、うちがOKとしたとしても、向こうがダメだったりするから。

      【会長】 そう、だから僕は財団同士である程度そこら辺の話をしたほうがいいのではないかと言っている。それぞれの財団でいかに留学生を支援するかを議論しても、それぞれの財団の中で話が収まってしまうので、重複受給の問題などは財団間での話し合いの機会も持ったほうがいいのではないかと。

      【渡辺】 今はまれになりましたけど、無条件でお給料が500万円、600万円出ますよという方がいらっしゃるんですね。やはりそういう方よりも全然出ないという方を選びましょうということにはなりますね。

      【横溝副会長】 そこは調べ切れないですよね。
      難しいけど、とにかく頑張って出してみろ、全部落ちてしまったら俺が何とかするからというボスが多いのではないでしょうか。ある意味では約束されているということかもしれないけど、やはり自分でグラントを取ってくるとボスは喜ぶし、評価が高くなるんですね。そのパターンが結構多いと思います。既に行っている人も2年目を自分で取ってきたら、もうちょっと雇えるみたいな。

      以下、〜その3〜 以降に続く。

  • 会長便り第1号:日本生化学会 会長・副会長座談会〜その1〜

    • 会長便り第1号として、両副会長との座談会〜その1〜をお送りします。
      なお、この座談会記録の内容は、各人の発言の意図が会員の皆様に正確に伝わるよう、録音の文字起こしの後に編集を加えた上でお届けするものです。文字起こし文はA4にして50 ページ近くにも及んでしまったため、今後数回に分けて、生化学会に対する熱い想いをお伝えしたいと思います。
      一條秀憲 

       

      〜その1〜

      日本生化学会 会長・副会長座談会

      日時:2022 年 2 月 18 日(金)午後
      場所:東京大学 薬学系総合研究棟 1F 186-2 一條教授室
      出席者:会長/一條秀憲、 副会長/水島昇、横溝岳彦、
      事務局/渡辺恵子

       

      【会長】本日はお忙しいところどうもありがとうございます。
      私にとって念願のひとつであった、両副会長とのフランクな懇談を始めさせていただきます。この目的は、今、生化学会の中でどのようなことが議論されているか、また新しい体制の中で生化学会がどういう方向性を目指しているかということについて、会員の方々と少しでも多くの情報共有ができればというのがひとつです。

      また、いよいよ創立100周年の節目を迎えようとする生化学会には、古くて新しい課題もたくさんあります。過去をふり返りつつ、生化学会にはどういう問題があって、それらがどのように解決されてきたかについても併せてご紹介できればと思っています。

      さて、テーマをきちんと決めているわけではありませんが、ざっくりと今日は、財務、会員数、女性比率、LGBTQ、支部活動、留学助成、他学会との関係、社会との接点、これからの生命科学等々に関して、議論出来ればと思っています。

      それでは早速ですが、まずは、学会の財務状況から話を始めたいと思います。
      資料のグラフを見ると、財務に関しては赤い棒グラフが正味財産額、青の折れ線グラフが会費収入で、明らかに10年ぐらい前の2011年からそれまで急減していた正味財産額がある程度のところで下げ止まって、最近では会費収入もちょっと上向き加減になっています。

      【渡辺】 会員数は今も漸減傾向ですが、回収を結構スムーズにできるようになったので安定しています。

      【会長】 たしか水島さんが会長をされていた時に一度会員数がちょっと増えたのですね。

      【水島副会長】 1人(笑)。

      【会長】 1人だけ?(笑)。でも、あれはそれまでに比べると衝撃的な。何年でしたっけ?

      【渡辺】 2016年です。さらに2017年にConBioがあったのと、他学会に倣って幽霊会員を除籍するのを2年から3年に延ばしたので一時上向いたのですが、その後コロナの影響もあって、特に学生会員数は急減しています。一方で、正会員数はあまり変わっていないので会費収入としては比較的安定しているようです。

      【会長】 正味財産と会費収入の下げ止まった時期というのがそこそこ一致しているんですよね。だから、会員数がある程度増えるというか、人口減少の中でもある程度のところで留まるというのが非常に重要だと思います。

      【横溝副会長】 あと、生化学会誌の全員無料配布をやめたということがありますね。生化学会誌関連の支出がすごく大きかった。

      【会長】 生化学会誌に関しては、石川会長の時の執行部の努力でまずオンライン化ができたことが大きかったですね。あれが実現したから、希望者のみに印刷体の有料頒布も可能になった。ただ、いまだに生化学会誌の出版事業に関しては、800万円の赤字なんですよね。

      【横溝副会長】 これが前は数千万だったですね。

      【会長】 はい、そうなんですが、一方で、JBはずっと黒字が続いている。

      【渡辺】 これはビジネスモデルが違うので、JBはもともと論文を売っている商売なので。

      【会長】 ただ、まぁ一言で言うと、とにかく今は非常に健全な財務状況になっている。日本生化学会は公益社団法人ですが、内閣府から公益社団法人として認定されるにはいろんな条件をクリアする必要があって、事務局はもちろん、当時の中西会長、石川会長も非常に尽力されたわけです。

      収益事業はいくらやってもいいのだけれども、公益であるが故に黒字を還元しなくてはいけないというところがあって、要するに利益を出してはいけないという、難しさがあるのですね。一方で格式と言うと変かもしれないけれども、社会的信用度の高い非常にしっかりとした法人というお墨付きをもらっているというところがある。それに比べると公益じゃない法人とかNPOは利益をどんどん上げて貯蓄していいという自由さはあるのです。

      ただ、生化学会も収益を増やしてはいけないわけではなくて、増えた収益は年度内にそれなりに支出すればいい訳です。過去十年くらいにわたる、それこそ本当に血のにじむような努力でスリム化は十分達成できてきたので、あとはむしろ収益をどんどん上げて、それをいろいろな事業に投入して行くべき時がきているように思います。攻めに転じるというか、後で話題になるかもしれませんが、収益は、例えば支部活動とか研究助成や留学助成とかの出資事業に使うことができるので、それが今後目指すべき重要な方向性のひとつかなと思います。

      財務状況に関しては現状をそんな感じで捉えているのですが、皆さんいかがでしょうね?これからは、積極的な増収案を考えていくのが重要かと。

      【横溝副会長】 今、少し事務局でやってもらっている広告関連、Webの広告と、あとメールで流している情報、あれは僕は非常に積極的な試みでいいと思っています。ただ、ああいうのは収益としてはそんなに大きくはないですよね?

      【渡辺】 そうですね、今、メールとWeb広告で年間で200万円ぐらい稼いでいます。

      【横溝副会長】 200万はそんなに小さい額じゃないですよね。ぜひこれからも積極的に進めてください。

      【渡辺】 ただ、ほかの学会がやり始めるとクライアントを取られるかもしれない(笑)。

      【会長】 だいたい年間あたり1億3000万か4000万円の収入があって、ほぼ収支トントンという感じで動いているということですね。

      【渡辺】 今期はたまたまコロナで理事会が全てオンラインになって、交通費とかが浮いているので、その分も黒字になっています。

      【横溝副会長】 あとはどんな収入があるんですかね。学会の企業展示なんかはこれからはなかなか厳しいかな。生化学会に限らず、ほかの学会でも企業展示というのは難しいし、そもそもあれは学会本体には入らなくて、企業展示をやったら「大会」のほうに入るのですよね。

      【渡辺】 そうですね、資料の「大会」を見ていただくと見かけ上マイナス780万円になっています。これは本部で大会に対して出資している元々織り込み済みの金額としての780万円ではあるのですが、これがトントンで終わっています。結局学会としては支出する形で終わっているので、もし将来的にここで利益を得ることができれば本当に安定していくのかなと思います。ほかの事業「表彰」とかは絶対的にマイナス、支出のみで収入ではないので。収入を得るとしたら大会事業か新しい事業を立ち上げるしかないですね。

      【会長】 今の話だけど、大会でもし黒字になれば、それは生化学会としての収入になるわけですよね。だから、それは収益事業として十分期待していいのではないかと思うんです。今年度の大会はコロナの影響で完全オンラインになりましたが、大会長の深水さんの機敏な英断と大会組織委員会の方々の見事な運営のおかげで赤字を免れました。リアルの会場費の莫大なキャンセルフィー期限がギリギリに迫る中、本当に大きな決断だったと思います。

      【水島副会長】 先日の話し合いでは難しいということになったのですけど、寄付をもっと集められないかと思うのです。生化学会だけの問題ではないですけど。学会と社会との関係になりますが、国からとか企業からとかだけではなくて、公益社団法人なのだから一般の方々からも支援していただくという切り口があるといいかなと思います。

      【会長】 その寄付を受けることが今は公益法人規定上できない状態になっているのですか? そんなことはない?

      【渡辺】 もちろん、寄付は受けられます。ただし、一般の方々からの寄付の場合、寄付者が全ての優遇税制措置を享受できる法人として認定されるにはかなり厳しい条件が課されていて難しいということです。ただ現実的にはあまり問題ないかもしれません。

      【水島副会長】 だけども、うまく伝える方法がないということなんですね。

      【渡辺】 会員にはいくらでも伝えられるんですけど、非会員名簿というのがあるわけではないので、一般の人にどうやって伝えるか。
      寄付金に関するサイト(https://www.jbsoc.or.jp/kifu

      【会長】 やっぱりSNSを使う? でも、注目してもらうための話題性も必要ですよね。

      【水島副会長】 国民のみなさんも、応用的な科学だけを応援して、こういう基礎的な科学を応援しないということは全然ないと思うんです。ただ、それを私たちがどううまく伝えられるかということになるかなと思うんです。

      【会長】 確かにそうなんだけど、現実は厳しいですね。やはり今、寄付がドーンと集まるのは、どうしても分かりやすくて話題性のあるものに対してだけですからね。そういう何か目に見える成果というのが一番なんだけど・・・。

      【水島副会長】 はやぶさなどはみんな人気があるじゃないですか。あんなふうにうまくアピールできることがあるといいなと思うんです。小学生や中学生で将来研究者になりたいという人は多く、研究者ってまだ人気の職業なんですね。ぜひ基礎研究を支援していただけるとありがたいのですが。

      【会長】 そうか、確かに地味だけど頑張ってるみたいな研究者を支援したいというすごく真っ当で上品な方々の層って、日本には間違いなく存在しますよね、且つお金持ちで(笑)。ただ、何か切っ掛けが必要ですよね。

      【横溝副会長】 もちろんノーベル賞とかは大きなイベントですけどね。最近自分でもびっくりしているのはYouTuberです。僕は山登りが趣味なんですけど、昔から山登りって全然お金が儲からない業界でした。でも、最近登山YouTuberがすごいんですね。自分がやった登山をずっとGoProで撮っていって、それを編集して上げるんですよ。人気YouTuberの広告収入というのはかなりすごいみたいです。ちょっとかわいい女の子とかがやったほうがお客さんが多いんですけどね(笑)、それだけで食べている人がずいぶん増えたみたいです。

      例えば大学や学会からプレスリリースみたいなものを紙で出しますけど、あれをビデオで出すのもいいかも。大きな研究成果については生化学会から定期的にYouTubeで出てくるというのをもうルーティン化してしまう。そうすると固定客がチャンネル登録をして時々見てくれると広告収入が塵も積もれば山となる。こうした活動を通じて、生化学会は頑張っているのだということが伝わって寄付文化にもつながればいいのかなと妄想したりするのですけども。魅力的なアピールができる人材が必要かもしれないけど。

      【会長】 私の身近にも自転車のツーリング動画をupしている研究者YouTuberがいますけど、あれは定期的に高頻度でupすることがすごく大事みたいですね。じゃないと登録者数増えないみたい。とはいえ、じゃあ生化学会YouTubeを考えますか?

      【横溝副会長】 この前も話題に出た、若い人にアピールできるTwitterとYouTubeをどうつなげるか、も課題ですね。

       

       

      以下、〜その2〜 以降に続く。

  • バックナンバー 2022年-2023年

    • 第1号 : 日本生化学会 会長・副会長座談会〜その1〜

      第2号 : 日本生化学会 会長・副会長座談会〜その2〜

      第3号 : 最近の動向

      第4号 : 「大会会頭に聞く」座談会 ~日本生化学会第95回名古屋大会・門松会頭、第96回福岡大会・住本会頭に聞く~

      第5号 : 日本生化学会 会長・副会長座談会〜その3〜