The Journal of Biochemistry Table of Contents for August 2020
The Journal of Biochemistry Table of Contents for August 2020
日本生化学会会員のみなさん
JB編集委員長
門松 健治
The Journal of Biochemistry (JB)2020年8月号(Volume 168 Issue2)が発行されましたのでご案内いたします。
生化学会の会員であればすべての論文がお読みいただけます。 日頃の研究のお役に立てば幸いです。
下記のタイトルをクリックして、「Sign in via society site」から会員番号、パスワードを入力してください。
ご不明な点は、事務局 <jbs-ho@jbsoc.or.jp>までお問い合わせください。
JB Review
The coupling of translational control and stress responses
Ryan Houston, Shiori Sekine, Yusuke Sekine
The Journal of Biochemistry, Volume 168, Issue 2, August 2020, Pages 93–102, https://doi.org/10.1093/jb/mvaa061
Rapid Communication
Farhana Yesmin, Robiul H Bhuiyan, Yuhsuke Ohmi, Yuki Ohkawa, Orie Tajima …
The Journal of Biochemistry, Volume 168, Issue 2, August 2020, Pages 103–112, https://doi.org/10.1093/jb/mvaa041
Regular Papers
Izumi Nakayama, Sayomi Higa-Nakamine, Ayako Uehara, Kazuhiro Sugahara, Manabu Kakinohana …
The Journal of Biochemistry, Volume 168, Issue 2, August 2020, Pages 113–123, https://doi.org/10.1093/jb/mvaa015
Dynamic localization of αB-crystallin at the microtubule cytoskeleton network in beating heart cells
Eri Ohto-Fujita, Saaya Hayasaki, Aya Atomi, Soichiro Fujiki, Toshiyuki Watanabe …
The Journal of Biochemistry, Volume 168, Issue 2, August 2020, Pages 125–137, https://doi.org/10.1093/jb/mvaa025
Translation efficiency affects the sequence-independent +1 ribosomal frameshifting by polyamines
Akihiro Oguro, Tomoaki Shigeta, Kodai Machida, Tomoaki Suzuki, Takeo Iwamoto …
The Journal of Biochemistry, Volume 168, Issue 2, August 2020, Pages 139–149, https://doi.org/10.1093/jb/mvaa032
Xiao-Yu Wu, Hua-Chun Chen, Wen-Wen Li, Jia-Dong Yan, Ruo-Ya Lv
The Journal of Biochemistry, Volume 168, Issue 2, August 2020, Pages 151–157, https://doi.org/10.1093/jb/mvaa034
MicroRNA-760 inhibits cell viability and migration through down-regulating BST2 in gastric cancer
Weiyu Liu, Yan Li, Shuting Feng, Yadi Guan, Yong Cao
The Journal of Biochemistry, Volume 168, Issue 2, August 2020, Pages 159–170, https://doi.org/10.1093/jb/mvaa031
Hui Zhao, Aixia Wang, Zhiwei Zhang
The Journal of Biochemistry, Volume 168, Issue 2, August 2020, Pages 171–181, https://doi.org/10.1093/jb/mvaa036
Long non-coding RNA MIAT promotes cervical cancer proliferation and migration
Lei Zhang, Shuxia Ge, Bing Cao
The Journal of Biochemistry, Volume 168, Issue 2, August 2020, Pages 183–190, https://doi.org/10.1093/jb/mvaa037
Structure, dynamics and function of the evolutionarily changing biliverdin reductase B family
Michael R Duff, Jr, Jasmina S Redzic, Lucas P Ryan, Natasia Paukovich, Rui Zhao …
The Journal of Biochemistry, Volume 168, Issue 2, August 2020, Pages 191–202, https://doi.org/10.1093/jb/mvaa039


私が研究に携わるようになり10数年。その間、ゲノム情報の整備とともに、その改変技術も革新的に進歩し、生物学がもっと手軽で身近なものになってきました。一方で、科学の発展に不可欠な知的好奇心を持つことが今後ますます重要になると感じます。生物学は生命現象の本質、生命の「なぜ?」に迫る最も身近で謎の尽きない魅惑的な学問だと常々思います。年に数度あるかないかの衝撃を味わうため、まだ誰も知らない現象を解き明かすその瞬間のためだけに、研究をやっていると言っても過言ではありません。そんな私が誰かに「研究者とは」などと大それたことを言うのもはばかられますので、本稿では色んな方からの教えを基に、毎年4月に新配属学生にレクチャーしていること、例えば「マイクロピペットの取扱方法」や「緩衝液とは何か」、「オートクレーブや手袋は過信するな」などと一緒に伝えている一般論的なことを一部ご紹介します。











この度、日本生化学会奨励賞を頂けましたことを心より光栄に存じます。
研究者としてのスタートラインはどの時点を指すのでしょうか?研究室に入ったとき、博士号を取ったとき、それとも独立して研究室を立ち上げたときでしょうか?いろいろな考え方があると思いますが、私は、研究者のスタートラインは「失敗、挫折を繰り返して、もうこれ以上自分の能力はない、行き詰まって動きがとれない」と立ち止まったとき、だと考えています。
高校生の私は研究者という職業に、「学問の真理を明らかにすべく、風貌やコネではなく実力だけで生きていく自由業な感じ」という勝手なイメージを抱きつつ(このイメージが誤りであることは後に知りました)、大学生になったころから絶対に大学院博士後期課程まで進み研究者になると決意していたタイプの学生でした。一方でいわゆる天才には敵わないだろうと理解していたので、研究は基本的に質よりも量で勝負していくスタイルが自分の持ち味だと考えて、体力勝負な実験を好みました。実際に学生からポスドクのころまでは平日は一日14時間、土日は6時間必ずラボにいることを自身に課した生活をして、日々の研究をとってもエンジョイしていたのでした。
一年に2,3回、実験結果を見ているとき、予期せず自分の中で強く確信できる瞬間が訪れることがあります。
とても皆さんに参考になることを書ける気がしないので、日々の研究でつまずいた時に思い出すことにしている私の体験について書かせていただこうと思う。
大野:初めての参加は修士一年の時でしたが、口頭発表で論文でしか知らないような先生から質問をされ、研究者の仲間入りをしたような気になって感激したことをよく覚えています。博士課程の途中で分子生物学会ができたので、それ以降、生化学会と分子生物学会にはずっとお世話になっています。プレナリーなどの素晴らしい講演で、印象に残っているのが多数あります。
水島:私も、学会事務局にノウハウが蓄積する仕組みは大切だと思います。会場の確保を含めた大会の基本的な枠組みが確立していれば、大会運営の効率化ができると思います。ところで、このようなコンソーシアム形式は今後どのような位置づけになっていくと思われますか?

将棋の名人戦などでよくみる長考の際に、トップレベルの棋士はどの程度先の手を読んでいるのでしょうか?その局面にもよりますが、意外にも十手先を読むのもなかなか大変ということを聞いたことがあります。大局的に考えながら、全体的な場を直感的に捉えながら、進めていくというのが常なのだと思います。研究に関しても様々な局面がありますが、端から全過程予想通りの結果が出る研究などありえるはずもなく、多かれ少なかれ予期せぬ結果に対応しながら進めていくというのが普通のあり方だと思います。
大学院生の時、パッチクランプ法を使って心筋のL型Ca2+チャネルについて研究していた私は、「いま測定しているCa2+が細胞に入った後、細胞内で何が起こるのだろう?」とふと思いました。もちろん、心筋なので筋収縮や、遺伝子発現を起こすことは教科書的には知っていました。しかし、これらは自分で発見したわけではありませんし、人間がまだ知らない他のことも起きているかもしれません。細胞に変化が起こった際に何らかの応答を引き起こす未解明のシステム、つまり新しいシグナル伝達の研究に興味を持ったのはこんなきっかけだったと思います。
奨励賞を頂いた研究は、私にとって、まさに奇跡の連続でした。今回はその奇跡的な出来事についてお話したいと思います。白血病でみられる3番染色体転座において、GATA2遺伝子のエンハンサーが、原がん遺伝子EVI1の近傍につねに存在しているという事実に気づいたとき、私の頭に「このエンハンサーがEVI1遺伝子の発現を活性化することが、白血病発症の原因ではないか」という仮説が浮かびました。大学院生の頃からGATA因子を研究していた私にとって、これは確信に近いものだったのですが、これをどうやって証明するかが大きな問題でした。当時、ミシガン大学のEngel教授らが、二つの大腸菌人工染色体(BAC)クローンをCre-LoxPシステムを用いて結合する技術を開発していたので、この技術を導入して染色体転座を再現するマウスを作製し、仮説を証明することを思いつきました。
この度、日本生化学会奨励賞という大変栄誉ある賞をいただけたのは、良き師に恵まれたことをはじめとして、とにかく幸運であったためであると思っています。そのため、偉そうなことを書ける立場にはありませんので、自分なりになぜ幸運に恵まれることができたのかについて考えてみることにします。今回、受賞対象となった研究はマウス個体レベルにおいてホスホリパーゼCdの生理機能を明らかにするというもので、大学4年生の時に東京大学医科学研究所の竹縄忠臣教授の研究室に配属された時から既に16年以上に渡り続けている研究です。研究を始めた当時、研究室ではマウスを用いた実験はほとんど行われておらず、講師の深見希代子先生(現東京薬科大学教授)をはじめとした数人が手探りで研究を行っている状況でした。そのため、苦労のわりには研究は進まず、こんなことで本当に生理機能解明にまでたどり着けるのだろうかと不安に思っていたのを覚えています。このような状況でしたので、研究では頻繁に壁にぶつかっており、そのたびに先生方、先輩、同僚など周囲に相談し、たくさん議論をさせてもらってきました。頻繁に相談される側はさぞかし迷惑だったこととは思いますが、この過程で問題解決に向けての様々なヒントがもらえることや、新たなアイデアに辿り着くことが多く、行き詰まった状況を打開してくることができました。このようにほぼ他力本願でここまで来たわけですが、私自身、心がけていたことを強いてあげるとすれば、困難な状況でも「何とかして研究を進めたい」、「どうしても知りたい」という熱意を持ち続けることです。この姿勢が周囲の与えてくれる小さなヒントも見逃さずしっかりと受け取るための準備となっていたのだと思います。また、遅々として進まない研究過程においても、日々のごく些細な進展(ネガティブなデータも進展です)を楽しむ気持ちを持ち続けられたことで、地道に研究を継続でき、結果的に幸運に恵まれることができたのかもしれません。今後も、幸運に恵まれ続けることができるように、熱意を持って楽しみながら研究に取り組んでいきたいと思っております。
将来は船乗りになって、世界の海を航海したい。海の目の前で生まれ育った私は、広大な海に漠然と憧れていました。しかし、そんな冒険のような職業は現代にはないことに気付き、失望したように思います。小学校低学年の頃から、毎日のように海に行っては、網で海洋生物を採り、釣りを楽しんでいました(餌は現地調達や数百円のゴカイ)。自宅に水槽を何台も置き、捕まえ釣った魚たちを毎日飽きずに観察して、子供ながらに生命の多様性・神秘性を自然と学んだように思います。そういうわけで、幼少期から「生命とは何か」に漠然と興味を抱いており、大学院で一流の研究がしたいと考えて、細胞内シグナル伝達研究の最先端を走っていた竹縄忠臣先生(当時東大医科研)の研究室に進みました。私が配属された第二研究室は、当時助手をされていた三木裕明先生(現大阪大学)と大学院生の末次志郎先生(現奈良先端技術大学院大学)が在籍されており、優秀な先輩方がハードワークする様子を目の当たりにして、一流の研究の厳しさを痛感し、自分はここでやっていけるのかと不安になったのを覚えています。しかし、研究を始めてすぐに、研究計画を考え、実験をすることが非常に楽しくなってきました。子供の頃、夢中で海洋生物を観察していた昔の記憶「好奇心」が蘇ってきたのです。三つ子の魂百までとはよく言ったもので、好奇心を満たすことができる研究が面白くて、不安よりも楽しさが勝り、ハードワークも苦ではありませんでした。しかし、当然ですが、好奇心だけでは研究はできません。幸いにも、竹縄研の優秀な方々のお力添えのおかげで、研究者として生きていくための能力を学ぶことができました。特に竹縄先生の御言葉はいつも鋭く、本質的で、サイエンスをするうえで大切なことをたくさん教えて頂きました。その中で、座右の銘にさせていただいている御言葉があります。これは研究者を目指す若い学生の皆さんの心にも響くと思います。「独創的な研究をするためにはビジョンとストラテジーが重要である」「流行を追うな、他人の後追いはするな」。
水島:JB論文賞には10万円の副賞がありますからね。是非応募して欲しいです。

横溝:生化学会奨励賞をいただいたときに、「生化学」に総説を執筆したのがとても印象に残っています。自分の研究を長い総説としてきちんと書かせてもらったのは「生化学」が初めてでした。酵素学からスタートして受容体発見にいたるまでの一連の研究の流れを執筆しました。また、脂質研究の分野では「生化学」に多くの総説が掲載されていて、大学院生の頃は、「生化学」で総説を読んだあとに、孫引きで原著を読むという形で勉強していました。それだけに、その雑誌に自分が執筆できるチャンスをいただけたことをとても名誉なことだと感じました。水島さんと一緒の受賞でしたね。

『「ちょっと古くなった肝臓を交換してくる。明日から、また、お酒を心置きなく楽しめるよ。」そういって、同僚は実験室を後にした。私は不器用で、要領も悪いので、昔から何をするにも人一倍時間がかかる。颯爽と出て行く同僚を横目に、コンピュータに実験条件をセットし、AI(人工知能)が結果を報告するのを待つ。今頃、自宅では、ロボットが掃除や洗濯を終わらせていることだろう。ごく当たり前の日常だ。私はその間に、最近古くなってきた肌を生まれたての赤ちゃんのようなもち肌にするために、転写を活性化して肌の細胞を入れ替える化粧品を買いにいくことにしよう。それにしても、私たちの親の世代では、iPS技術で自分の細胞のクローンをつくり、臓器を置き換えて病気を治療するというのは、費用もかかる大変なことだったらしい。今は、この技術は進化して、簡単に組織を複製できる。このiPS技術がつくられたのは、ちょうど祖父母の世代だ。今ではごく当たり前のことだが、当時は驚きをもってその結果は迎えられたときく。今では、個人の全ゲノムデータは生まれたときに解析されているので、それを元に将来どのようなリスクがあるかも、非公開ではあるが寿命も予測できる。ヒトのゲノムがわかっていなかった時代があったなんて、想像できない。当時はどうやって研究活動をおこなっていたのかしら。。。』
昨年は大学卒業後15年の節目でしたが、どうした巡り合わせか、何人かの大学同期生に会う機会に恵まれました。アメリカでPIになった人、研究とは違う領域で留学した人、たまたま仕事で大学を訪問してきた人、などに会ったのですが、こうしてみると大学卒業後の進路はまさに様々です。博士課程に進学した人でも、大学で研究を続けている人は限られています。私自身は、これまでの研究生活を振り返ってみると、良き指導者や共同研究者に巡り会い、恵まれた環境にいると感じます。
この度は「ヘム代謝関連酵素の構造生物学的研究」という研究課題に対して、日本生化学会奨励賞という歴史ある賞を頂き、関係の諸先生方に熱く御礼申し上げます。今後、この賞に恥じないように研究に邁進していく所存です。私は高校生の頃に読み漁っていた様々な本の影響や、大学の講義の中で、タンパク質の立体構造に興味を抱き、大阪大学の福山恵一先生の指導の下、タンパク質の結晶構造解析に取り組むようになりました。配属時に提示されたいくつかの研究テーマから、私が選択したのが、ヘムをビリベルジンへと分解するヘムオキシゲナーゼ(HO)の結晶構造解析です。HOはヘム代謝において中心的な役割を果たす酵素で、鉄の恒常性維持、酸化ストレスに対する防御、種々のシグナル伝達反応に関与する興味深い酵素です。この酵素の研究は、久留米大学の野口正人先生との共同研究として、私が福山研究室に配属される少し前から始まっていたものです。当時、HOの立体構造は不明であり、私も重原子同型置換法などによる構造決定に取り組んでいましたが、残念ながら米国の研究グループに先を越されてしまいました。私は修士課程一年でしたので、企業への就職も考えていましたが、このような「挫折」をバネに、さらに研究に取り組む事にした結果、最初に明らかにされた基質複合体以外の反応中間体複合体などの立体構造解析において、先駆的な結果を出す事が出来ました。
このたびは、自然免疫系Toll様受容体の構造生物学的研究に関して日本生化学会奨励賞を授与いただきまして大変ありがたく存じます。私がこの研究を始めたのは修士1年のときですので、もう10年以上にわたって続けてきたことになります。当時、Toll様受容体の存在すら知らなかった私に、エンドトキシンショックの原因物質であるリポ多糖認識に関わるTLR4の共受容体であるMD-2という蛋白質の構造解析のテーマが与えられました。それからちょうど4年かけて、博士課程3年の秋にようやく構造決定することに成功しました。昨今の構造生物学を取り巻く熾烈な研究競争の状況を考えると、わずか200残基にも満たないこの小さな蛋白質の構造解析に4年もかかることが許されたのは大変幸運であったと思います。実際、この結果を論文として発表した数ヵ月後にTLR4とMD-2の複合体の構造決定が他のグループから報告されていますので、学位を取れただけでも運がよかったと今では感じています。現在、ある生命現象に関わる蛋白質の機能が報告されると、それと同時に構造解析レースのスタートが切られ、ある人は勝者となり、他は敗者となります。自分がやらなくても他の誰かがやるのであれば、そのレースに加わる必要はあるだろうかと最近よく考えますが、正直よく分りません。ただ、競争とは関係なく、手をつけた蛋白質の構造はやはりその目で見たいと思うものですし、誰も見ていないものを見るというのはそれ自体面白いものです。
このような大変栄誉ある賞を頂きましたこと、まずこの場を借りて、ご指導頂きました先生方、また献身的に実験を行って頂いた補佐員ならびに学生の皆様に心より御礼申し上げます。流動的なアカデミックに於いて、卒業研究から本受賞に至るまで一貫したテーマで研究を続けることができましたこと、改めて直接ご指導頂きました熊谷泉、工藤俊雄、両東北大学名誉教授に厚く御礼申し上げます。
この度は「立体構造から迫る酵素の作動機構」の研究に関し、日本生化学会奨励賞をいただき大変光栄に感じております。私は北海道の田舎に生まれ、研究とは縁のない環境で育ったのですが、幼少の頃からなぜか、生物と無生物の両者が共通の原子によって構成されているということに興味を抱き、将来は研究者になりたいと漠然と考えていました。タンパク質の作動メカニズムに興味があったので、東京大学大学院 農学生命科学研究科 酵素学研究室において6年間、祥雲弘文先生、若木高善先生、伏信進矢先生の指導の下、好熱性古細菌の糖代謝酵素に関する構造機能研究を行いました。修士課程では、当時発見された新規のFBPホスファターゼの結晶構造解析を行いました。博士課程では、分子実体が不明だったヘキソキナーゼの研究を行いました。好熱性古細菌を大量培養し、酵素活性を指標に菌体抽出液からタンパク質を精製し、新規のヘキソキナーゼを同定しました。さらに、結晶構造を決定し、そのユニークな基質特異性の分子基盤を解明しました。これらの研究成果は華やかなものではありませんでしたが、研究テーマの立案から論文執筆までを経験できたことは現在の研究の基盤となっています。
まだまだ現役で手を動かしているものとして、若い方への文章を書くというのは中々難しいのですが、1つ後悔していることを書いてみます。この数年、遺伝学や質量分析計を用いたスクリーニングをたくさんしています。すると全然知らない遺伝子がたくさん取れてきます。勉強をし直す良い機会と思い、Molecular Biology of the Cellを読み直してみると(実は、学生時代もそんなに読み込んだわけでもありませんが)、生命科学の全ての分野がたった15年でここまで進んでいたのかと本当に驚きました。もちろん、自分の専門分野であるユビキチン‐プロテアソーム系の主要な論文は把握していますし、専門外の分野もNature Reviews誌などで幅広く読んできていたつもりですが、やはり、自分の研究に近いところしか目に入っていなかったようです。これは本当に大きな失敗でした。昨今の熾烈な研究競争で中々まとまった勉強の時間を取れないのが実情で、自分の専門分野の文献を読むので精一杯かもしれません。寧ろ勉強するよりトップジャーナルを出すのが先です!なんて意見も聞きますが(私もそうでした)、昔はともかくこれからは逆でしょう。多くの実験がキット化により画一化され簡単になり、次世代シーケンサーや質量分析計の高度化により数百から数千、数万?の分子を対象とした網羅解析が既に一般化しています。例えば、免疫沈降物のMSによるショットガン解析などでは大抵500~1000個の相互作用タンパク質が同定されますが、新しい分子なり新しい経路なり世界で誰も気がついていない発見が含まれているはずです。目の前のリストに宝があるかもしれないのに、それを見過ごすのはとても残念です。実際、私も競争で負けてからデータを見直して自分のセンスの無さに愕然とすることも多々あります。専門分野のみの知識では、やはり見たいものしか見えませんし、大抵のボスは忙しいので、実験者自身が見つける必要があります。ちょうどThe Cellも第6版が出たばかりですので勉強してみては如何でしょうか。ちなみに第6版でプロテアソームの原子構造モデルが追加されており、プロテアソームのみならず、ユビキチン、オートファジーなどタンパク質分解に関する文章も増えています。このように定点観測にも最適かと思います。第7版に自分の図が載ることを目標にしても良いかもしれません。頑張って勉強する時間を確保しましょう。
高校生の頃から発がんのメカニズムに興味があり、中でも「Rasという小さなスイッチ役たんぱく質の1カ所の変異でも細胞をがん化してしまう」ということに衝撃を受けました。この衝撃が今でも研究のモチベーションの礎となっています。父がエンジニアだった影響で、集積回路の組み立てや機械いじりは日常慣れ親しんで好きな光景でした。いわば、「体のなかのスイッチ」を研究することは、私の憧れでした。
この度は、マイクロRNA (microRNA)の生合成と遺伝子発現調節機構に関する研究について、日本生化学会奨励賞という大変名誉ある賞を頂戴し、諸先生方ならびに学会関係者各位に厚く御礼申し上げます。私のこれまでしてきた研究の内容が非常に生化学的かと言われると、そんなだいそれたことはもちろん言えようもありません。しかし、今回の受賞を機会に自分自身で生化学とは何だろうかと考え直すと、生化学はまさに「生物学の王道」の1つであるように思います。








詳細は独立行政法人日本学術振興会のHPをご覧ください.
http://www.jsps.go.jp/j-ikushi-prize/